表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Promise―桜色の約束―  作者: 吹雪龍
第3話
77/160

「炎の記憶」08

*****



「良い?その力はね――」


 母の優しい声が耳を擽る。泣いている自分を包み込むように温かく、心が安らぐ。随分と長い間思い出せなかったが、確かこのような声であったと記憶している。



*****



 自身の右腕から紅蓮が放たれている事がまるで当然のように、護は宙を舞う火の粉をぼんやりと見詰める。焦点は定まっていないのかもしれないが。


「……守れたよ。結構、壊しちゃったけど……ごめんね……」


 その言葉を呟くと同時、力を失って両膝から崩れ落ちる。壊れた入り口からは沢山の足音が地面を伝わって響いてきた。混濁する意識の中、護は自分の名前を呼ばれたような気がしたが虚脱感と疲労感には抗えず、そのまま意識を闇の底へと投げ出してしまう。


「負傷者だ!急いで運べ!」


「隊長……俺らが撤退したばかりに……!」


「こっちはまだ生きてるぞ!早く!」


「あ、おい研究員はまだ立ち入りの許可がないぞ!」


「うるさい、知り合いが居るんだ。通せ」


 先程までとはまた違った騒がしさに覆われるドーム内。そこにやって来たのは特殊スーツを身に纏った警備隊員たちと救護班と書かれた腕章を巻いた者が服数人、そして白衣を纏った若者。白衣の若者はその人混みを掻き分けると一目散に護の元へ。


「また担ぐ事になるとは……」


 そっと護の体を持ち上げて背中へ。何か起こる度に気を失っていた護を運んでいた人間、大和である。どうやら今日は『研究所』の人間として何らかの作業をしていたのかもしれない。その証拠に白衣の至る所に真っ黒な煤がついている。


「その子は……どうするんだ?」


「ああ、すまない。友人でな」


「んー……見たところそんなに怪我してるって訳でもないし、それにうちの関係者なんだろ?」


「そう。だからこっちで運んでおくよ」


「了解。起きたら事情聴取は任せる」


 片手を挙げ、警備隊の男と別れる大和。瓦礫が散乱している箇所は主に中心だ。その他はどちらかと言えば能力による損壊、つまり高温で溶解した後や小さな水溜りなど。それらを避けながら歩いていく。


[へえ、友達だなんて珍しい言葉使ったね大和]


「……あんたずっと見ていたのか」


[ずっとじゃないさ。回線復旧に時間掛かったから……でも君らが突入する直前まではね]


 足元からノイズが聞こえたと思えば、そこから流れてきたのは男の声。転がったスピーカーからだ。あの激しい衝突の中、偶然にも無傷で、瓦礫に守られていたようだ。きっと似たように無傷のカメラが転がっているのだろう。何とも用意周到で、計算し尽くされた空間だ。

 その声に顔を顰める大和。立ち止まり、誰にも聞こえないような音量でその声の持ち主に言葉を投げる。


「何を吹き込んだ?」


[べっつにー?ただ能力者の定義について話していただけだよ]


「強要する必要性はないだろう」


[でも、あの能力は凄く魅力的だ。是非ともこっちに――]


 大和は右足でスピーカーを強く蹴りつけた。勿論それなりの大きさであり、極普通の人間である大和の脚力では吹き飛んだりしないが、相手の耳にダメージを与える事は出来る。


「いい加減にしておけ。さっき作った試作品で穴開けてやろうか」


[っー……まったく乱暴だね大和は。昔っから。それとも聖羅ちゃんの暴力癖感染った?]


「性格悪い兄貴には言われたくない。じゃあな」


[はいはーい。どうせ見えてるけど]


「……」


 ここにあの男から逃れる術などないのだと思うと嫌気が差してくるが、いつまでもこのままで居る訳にはいかない。最低限の情報は聞き出しておきたいし、護は妹も連れてきていたはずだ、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ