「炎の記憶」05
真っ赤な炎がフルフェイスのヘルメットに反射して煌く。煌々と燃え上がるそれが胸に直撃し、強い力で体を吹き飛ばそうとしているが、体は氷で固定されていて残念な事にそうはならない。しかも能力者対策として製作されたスーツは耐熱性も高く不思議と熱くも冷たくもならなかった。ただ自身の体が少しずつ焼かれているという恐怖で声も出せない。
「面倒な物作ったな……だけどな――」
右手から伸ばしていた炎。尽きる事無く燃え続ける炎が更に増大。投擲槍とは言いながらも常に放出されるエネルギーの塊がリーダーの男の胸を貫こうとしている。じわりじわりと歩み寄る熱が絶望を感じさせていく。
「――あの時とは違う!」
ジャベリンの声と共に炎が増し、男の体を氷から引き剥がして炎の濁流へと投げ込んだ。悲鳴すら聞こえない。それ程までに膨大な熱量を持った炎が大きな体を覆いつくしたのだ。濁流に流され、男は壁面へと叩き付けられる。ヘルメットのバイザーは皹だらけ、特注スーツも黒く焦げ肌のような何かが所々見えていた。
衝撃的なまでに人間の体裁を保った姿が偶然にも、何の因果か護の目の前に落とされたのだ。息を殺し、目の当たりにしてしまった惨状を頭から消し去ろうとするが、護はその状態から目を逸らす事が出来なかった。恐怖と混乱で頭がどうかしてしまったのか、震える体を抑えながらも瓦礫の隙間から男の体に視線を送っている。
既に意識がないのか指一本と動かさない男。焼け焦がされたスーツ、その僅かな隙間から覗く爛れた皮膚にはいつ負ったのか分からない裂傷。そして何よりも衝撃的だったのは下半身。先程は氷で固定されていた両足が、無かった。膝から下、本来有るべき物が存在していなかったのだ。遅れて来たかのようにドロリと赤黒い液体が流れ出す。それは次第に瓦礫の隙間へと染み渡り、護の方へ。
「それじゃあ今度こそ、盛大に……!」
「だから、別にそうする必要は……」
「気にするなって!行くぜ!」
吐き気を催す臭気。またもやフラッシュバックする光景。紅に染まったあの空間。あの、と言うよりもここがその場所だったのではないか。ここまで荒廃しては居なかったし、登場人物もこれ程多くないが。そしてここは、少なくとも自分と、両親の思い出があった場所。それが、今再び壊されようとしている。誰とも知らない人間によって。
逃げる気力はない。ただ何故か動こうと思った。尻餅を着いたまま手を動かして後退。何度か似たような動きで男の血液から逃れようとしていると、右掌に痛み。見てみると瓦礫によって切れたのか砂埃に混じって自身の血液。それをじっと見詰めていると意識が遠退く。ただ、気絶するというよりもこれは少し違った感覚で――
護の存在には気付いていない救世主の二人。ジャベリンは相変わらず右腕に炎を灯し、それを何度か伸ばして施設を破壊し始めている。ホワイトはそれを呆れたように、無感情にも聞こえる声で宥めるようにしていた。しかし、二人はすぐに異変に気付く。
「何だ、能力者か……?」
自分たちに似たような気配。それが唐突に現れた。しかもこの場所に。




