「炎の記憶」04
「フレア、遅い」
「ああ悪いなホワイト。お前の方はもう良いのか?」
「あっちもハズレ。だからグレイヴが暴れてる」
「……俺に止めろって?無茶言うなよ」
傷付いて倒れたランスを無視して現れたのは、護も知っているホワイトだ。彼の腹部を貫通させた氷もホワイトの能力によるものなのだろう。
「能力者が増えやがった……!」
「た、隊長!もう、弾がありません……!」
ランスの援護射撃に使用した弾で全て使い果たしたのだ。残されているのは護身用のナイフ。格闘術も訓練はされているが、あくまでも警備用の予備技術程度の精度。今し方目の前で起こった戦闘に耐え得る程の技量を持ち合わせては居ない。
(撤退、するか……?出来るのなら――)
ランスの生死はここからでは分からない。だが大きく腹部を貫かれ、周囲に血溜りを作っている。あれで動けるのだとしたら、それはもう人間の域を超えているのではないか。
「それじゃ、景気付けにここら一帯を海に変えておくかね」
「……そこまでする必要はないんじゃないの」
「急にどうした?ここだって『機関』の一部だぞ?」
何故かジャベリンの言う事に難色を示すホワイト。同じ『救世主』という組織に属していても完全に意思が共通している訳ではないのだろう。
「お前ら、撤退するぞ」
「了解、ですが……」
「敗走じゃない。これは補給のための撤退だ。良いか、合図したら走れ。殿は任せろ」
並んで立つ部下に小声で命令を飛ばし、自身は腰に吊るした物に左手を伸ばす。そして、頃合を見計らって右手を上げる。
「ゴー!」
隊員たちが銃を抱えたまま全速力で駆け抜け、時に瓦礫に引っ掛かって転びそうになる中、リーダーの男は――
「せめて、一太刀浴びせてやる……!この、異常者め……!」
――自身は逃げようとせずに腰に吊るしてあったナイフを抜き、会話を続ける『救世主』二人に向けて突進。弾が無効だった事への怒りなのか、それとも何も出来なかった事へのもどかしさなのか。そのどちらかが、彼の足を動かしていた。当然恐怖心はある。だが、リーダーとして退く事が出来なかった。
「異常者だと?誰がそうしたのか分かって言ってるんだよな?」
「……!」
近付き、突き刺そうとしたナイフ。しかし直前まで来て足が動かない。怯えているのか、それとも。足元に視線を落とす。既に感覚は無かった。冷たさも、熱さも感じない。膝上まで、覆われていたのだ。透明な、氷に。
「く、来るな……!来たら刺し殺して――」
動けなくなった男にゆっくりと歩いて近付くジャベリン。氷は次第に体の動きを抑制し、遂に腕も動かなくなった。
「見ていろランス。これがお前が守ろうとしたものだ。それと、お前が最後に見る最大の――」
右腕に大きな輝き。揺らめく炎。
「――投擲槍だ!」




