「炎の記憶」03
目の前で繰り広げられる能力者同士の戦いは壮絶なものだった。同じ炎であるのにまるで質量を持っているかのように互いにぶつかり合い、熱風と火花が舞う。
見ていると、どうやら両者の能力は性質が違うようで、ローブの男――ジャベリンはなるべく近付かない距離で炎を一直線に伸ばして狙撃するように正確に。対して大柄の青年ランスはその伸びた炎を避け、時折突き刺すようにしながら肉薄していく。
(とにかく撃てば援護になる、とは言ったが……)
「た、隊長……どうしますか……?」
「……狙撃だ。正確に、目標だけを撃つ」
「了解!」
警備隊のリーダーはフルフェイスのヘルメットの中で生唾を飲む。ランスの援護射撃を頼まれてはいるのだが、照準を上手く合わせる事が出来なかった。下手に動かせばランスの背中を撃ち抜いてしまいかねないし、そもそも弾数が残り少ない。無駄にする訳にはいかないのだ。そして手にしている銃も狙撃向きではなく名の通り突撃銃。それでも訓練を受けている身だ。やれないはずがない。
その間も両者の戦闘は続く。激しく散らす火花は芝生を焼き、熱風は塵や埃ごと焼き尽くす。まるでこの場所だけが真昼間の砂漠ような感覚だ。居るだけで体内の水分が蒸発し、汗が滝のように流れ、体力も奪われる。
一般的な男子よりも体力面が弱い護にはとても辛い環境のはずだ。逃げ出す機会を完全に失くしてしまった護は相も変わらず瓦礫の影から顔を出し、時折襲い来る小さな破片に目を強く瞑りながらも戦闘に視線を送る。怖いし逃げ出したい。だが、それでもこれが今自分の前で起きている事で、過去を知る為に必要な事なのだと言い聞かせ、歯を食い縛るように耐える。しかしここで護の心に何か引っ掛かるものがあった。
焼かれて剥がされた地面、崩れ落ちて鉄筋の見える天井、穴だらけの壁、そして何より真っ赤に燃える、この空間。頭に鋭い痛みが走る。呼吸が荒くなり、吐き気までやって来た。護の頭に思い出されるのは過去の記憶。突如として真紅に染め上げられたあの空間。その場所が再び、目の前に、似たような――
「倒れ、ないよ――そう何回も……!」
フラッシュバックした光景に負けないようにと胸に拳を当てる。湧き上がる感情。苦しさと悲しみと、他にも何かがあった。耐えなければ。耐えて、乗り越えなくてはならない。それが出来なければきっと過去の真実を知る事すら敵わないだろう。
「ジャベリン、大人しく投降しておけ。接近戦で俺には勝てないぞ」
「ふ……言うようになったな。“こっち”もやられたのか?」
肉薄したランスがジャベリンの首筋に炎の槍を突きつけている。しかしそのような状況でもジャベリンは臆する事無く、ましてや挑発するように自身の頭を指で叩く。そこにどのような意味が込められているのか。
「それに今は――」
ランスの炎が嘘のように消える。自身の体の変化に理解が追いついていないのか、空虚になってしまった両手に視線を送ったが理由は別の箇所にあった。腹部に滲む液体。遅れてやって来た痛み。貫かれている。
「槍が貫かれるなんて、間抜けな話だよな。お前には悪いけど俺らにも目的ってのがある」
ゆっくりと、地面が近付いているのが分かった。自分が倒れているのだと。
ランスの腹部には透き通るような薄い青色の棘。それはガラスのようでもあり、見方次第では氷のような――