「異能の世界」40
[ここで重要になってくるのは、何だか分かるかい?]
話の流れが全く以って見えてこない護は首を横に振る。どうにか理解しようとはしているのだが、そもそも知識が足りていない。足りないものを補える材料もないのだ。こうする他に無いだろう。
[この世界には本当に後天性の能力者しか存在していないのか、と言う事だよ]
「……それが、一体どうしたんですか?」
[君はどう思う?]
「……僕には……何とも……」
意図が見えない。武蔵は護にどのような回答を求めているのか。だからこそ護は口を動かそうにも動かす事が出来ずに居る。
[では少し変えようか。もし、異能力が使えるとしたら。それはどんな人だと思う?]
「どんな人、ですか?」
「そう。性格でも見た目でも何でも良い……君の意見を聞かせて欲しいな」
武蔵の考えはどこにあるのだろうかと、質問の答えを用意しながら同時に思考を働かせてみる事に。
そうは言っても、護は能力者を片手で数えられる程の人数しか見た事がない。そしてそれらに共通点があるようにも思えなかった。
しかし、この場合分からないと答えても質問が終わらないケースが多い――あくまでも護の体験談ではあるが――。とにかく意見が欲しいという事ならば、どのようなものであっても良いはずだ。
「外的要因があるんだとしたら……その反対もあって良いはずです」
[ほお……例えば?]
「それは……精神的に何かがあったとか、他にもその反対、とか――」
[うんうん! やっぱりそうなるよねえ! 見込んだ通りの答えだよ!]
どこかで拍手をしているのか、音が衝撃となって護の体内にまで響いてくる。あまり心地の良いものでもない。
[そして、先天的なのもあっても良いって事を言おうとしたんだよね?]
「は、はい……そうですが……」
[少ない情報でそこまで考えてくれるのは嬉しいね。期待通りの答えをありがとう。そして、僕自身もそう思ってるんだ。だけどその確証は今のところ得られていなくてね]
先天的な能力者はまだ現れてはいない、だからその本物を見たいという事だろうか。
だが、何故それを護相手に話すのだろう。それこそここの研究員に手伝って貰えば良い事だ。少しだけ知っている護に聞いたところで何らかの面白い情報が得られる訳ではない。
それとも、この会話を録音でもしているのか。これも理由が無い。だとすると、何だ。珍しく護の疑いの心が敏感に働く。
[異能力者、というのは――……で、なんだけど……]
「……?」
急に音が飛び始めた。わざとやっているようには思えない。耳障りなノイズがスピーカー各所から響いてくる。
「あの、今何て……?」
[あれぇ? ――っかしいな……ノイズが乗って……える!?]
武蔵の声が途切れ途切れ聞こえているが、それも次第に音量が小さくなっていく。今ではもう、波のような音しか聞こえなくなってしまった。
一人残される護。漂う不穏な空気。何となく、嫌な感じだ。胸中に靄が掛かったかのような感覚。不思議と、ここから出て行かなければならないような気がする。護がドアへと足を向けたその時だ。
不安が現実となる。ドームの天井に響く轟音、揺れる地面。降り注ぐ瓦礫。
立て続けに二度の衝撃が護の体を襲う。ふらつき、地面に座り込んでしまう。地面は意外にも柔らかかったが、それよりも気になるものがある。
割れた天井から降る一筋の光。それが中心を照らすように集められている。その姿には見覚えがあった。純白のローブに顔を覆いつくす仮面。その集団の名を――
「『救世主』……!」
その足元には燃え上がる真っ赤な炎。全てを焼き尽くそうとする真っ赤で、熱い、炎。
Promise
第2話『異能の世界』終




