「異能の世界」39
天井に吊るされたスピーカーから鳴り響く武蔵の声。ここに来る事が分かっていた、とはどういう事なのだろうか。誰かに告げたりした覚えは無いはずだが。
[驚いているのかい? けど、そう驚く事もないはずだよ? だってここがどこなのかは誰よりも、君も知っているはずだよ]
一体どこから見ているのだろうかと周囲を見渡しつつも、頭では言葉の意味を考える。答えはすぐに見付かった。壁面に描かれたロゴマーク。かの有名なアナザースター社の物。そしてこの会社には裏があった。それが、『研究所』。護は既にここの一員となっているのだ。だからこそ、江草にも顔が割れていた。ここに入った時点で、護の行動は全て筒抜けだったのかもしれない。ならば、驚く必要など無い。普通にしていよう。
「そう、ですね……」
[ああ大丈夫。そんなに声張らなくても音は拾えるから……それで、どうかな? 何か思い出した?]
「……」
まるで何もかも見透かされたかのような一言だ。
護は俯く。記憶の中に蘇るのは小さな頃の自分だ。いや、自分だけではない。家族の事もだ。温かい空間。その光景が目の前で赤に染まる。だが、目は逸らさない。ここで逃げてしまえばまたいつもと同じだ。
「ここが……ここが、僕の家の場所だったっていう事くらいは……感覚的に……」
[ふむ……まあそんなものかな。ショック療法なんかも効果ありそうだと思ったけど、微妙だったみたいだね]
「……」
[そう落ち込まないで! そうだ、せっかくだから……君の今立っている場所。と言うかそこの施設ってなんて言うか知ってる?]
護は直感的に思った。この武蔵という男とは仲良く出来ないかもしれないと。先々を見越されているかのような回答が飛んでくるのだ。何でも知っているような雰囲気を持ち合わせて。どうやら自分はこのようなタイプの人間は苦手なようだ、と嫌でも認識させられる。
「知らないです……」
[では教えてあげよう! そこはねえ、多目的実験場って言ってね? 様々な実験をそこで行う事が出来るんだよ。今はその足元の人口植物が光だけでどれだけ伸びるのかっていうのをやっているんだ。ちなみに食べられるよ]
「その情報はあんまり……」
[まあ苦いらしいからオススメは出来ないよ]
「食べないです」
流れる沈黙。本来であれば静かにここで思いに耽るところだっただろう。だが、今はこうして武蔵による妨害――恐らく護にしてみればこの表現が正しいのだろう――を受けている。自分でも感じているだろうが、珍しく不機嫌だ。
[まあ別にそんな話をするつもりで、こうやって君を見ている訳じゃないんだよ?]
「そう、なんですか……?」
[本題ね。……異能力者は大多数が後天性。だから、その能力の発現には恐らく外的要因が加えられているはずだ。いや事実大多数が受けていると言っても良いだろうね]
「……?」
いきなり何の話をしているのだろう。異能力者について。ここで護に話す意味があるのだろうか。首を傾げながらも護は話の先を聞き漏らさないようにと耳に神経を集中する。