「異能の世界」34
――BブロックC78。これは建物に付けられた名称らしく、視界のおよそ右上に掲げられていた。江草はその前で立ち止まると、半回転。腕を組み、自慢げに語る。
「ここが、私の所属しているロボット開発班の根城だよ。君たちも知っているであろうあのロボットたちも、実はここから生まれている……かもしれないよ」
思い浮かべられるのは掃除用の小型ロボットだったり、工事用のアームだったりだが、果たしてそれが正解なのかは定かではない。だが、中に入ればそれも分かる事だろう。
「では、付いておいで」
言われたように中に入ろうとすると、どうやら認証システムが導入されているらしく、ドアの前に設置されている端末に手を翳す。小さなモニターには照合中の文字。
「わ~映画に出てきそうだね!お兄ちゃん、私もアレやりたい!」
「ダ、ダメだよ……落ち着いて……」
「うぇー……」
「そんな顔しないの。女の子でしょ」
「まったく。お兄ちゃんはいっつも固いんだから……ちょっとくらい大丈夫だと思うんだけどなぁ」
「そもそも登録してないんだから無理だと思うよ?」
承認されたのか、電子音と共にドアがゆっくりとスライド。これで中に入れるようだ。見える範囲では特に不思議な物は見当たらない。宣伝のポスターや社内連絡などが乱雑に貼られている辺りはさすが研究者と言ったところか。
「おぉ……!」
「あの、これは……?」
真美が感嘆の声をあげる。それもそのはずだ。足を踏み入れ、まず目に入ったのは機械で作られた大きな腕。目視で三メートルはあるだろうか。洗練されたデザインの中にも緻密なパーツが取り付けられており、まるで芸術品のよう。白を基調に各所に銀色のラインが走っているそれの横で江草は少し不満そうな顔をしながら護の質問への回答を放つ。
「あくまでも完成予想の模型なんだけど……災害対策用にってイメージして貰えれば良いかな。急に決まって計画する事になったんだよ。ただ、私としてはもう少し小型化、軽量化して欲しいところなんだけど……人型である必要も……あ、触らないでね。これ紙だから」
(急に……計画……?)
「ええ!?紙なんですか!?すっごいなぁ……!」
護の中に新たな疑問。しかしこれは自分で解決出来そうだった。何故なら、何となくではあるがその理由が分かるからだ。きっとこれは災害対策用という名の――
「それじゃあもっと面白い物を見せてあげよう。せっかくだから体験も……出来たら、ね」
「何だろう!わくわくするね!」
「え?う、うん……」
ここで開発されている物は全てが全て、名目通りの使用法ではないのだろうか。そう思いながら護は江草の後を追う。
説明を受けながら進んでいると、奥から若い男性が慌てた様子で走ってくる。その手には大量の書類。実験結果か何かだろうか。
「班長、どこに行ってたんですか!探しましたよ!」
「ああごめんごめん。お客さんも大事にしないと」
「客?ああ、見学の方ですか……じゃあこれ、置いときますから今度こそちゃんと読んでくださいよ?」
「うん。あ、ちょうど良い。先に行ってサポーターの準備出来ないかな?」
「サポーター……なるほど、分かりました。じゃあ、本当にこれ、お願いしますね!」
「はいはい」
にこやかに受け流しつつ江草は何かを頼んだようだ。それが一体何なのか、到底二人には予測も出来ない。
「何の話だろうね?」
「さあ……」




