「異能の世界」31
どうやらこの駅は改札が一つだけのようだ。ならば迷う事もなく出る事が可能。階段を降り、改札階へ。
「何だか静かだねえ」
「降りる人が少ないからかも……あ、ちょっと待ってて。僕が聞いてくるから」
「はーい」
改札を出る前にこの周辺がどうなっているのかを駅員に確認しておく必要がある。出たところで何も出来なければとんだ無駄足となってしまうからだ。
「あの、すみません。ちょっと良いですか?」
駅員の事務室に暇そうに座っていた小太りの男性。年齢は四十代くらいだろうか。護に声を掛けられてから少し驚いたように腰を上げ、しかしすぐに営業用の笑顔に。
「どうか致しましたか?」
「ええっと……ここら辺って一般の人が歩いて回っても大丈夫なんでしょうか?アナザースター社の敷地だというのは地図で見てるんですけど……」
「ああそういう事でしたか。確か……見学する事くらいなら出来たはずですよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「あ、ただ……」
何かを言い淀む駅員。気まずそうに顔を逸らしながら辺りを見回す。まるで何かを警戒しているように。そして意を決したように脂肪の多い手で小さく手招き。近くに寄れ、との事だ。
「あまり大きな声では言えませんが、気を付けてくださいね」
「気を付ける……何をですか?」
「この駅を出た途端、そこから先はアナザースターの敷地なので……すぐそこで何があっても関与出来ない契約になっておりまして……」
物騒な話だと思った。あの出口の先からはまるで別の国のような言い方だ。だが、それでも一種の企業。そうそう恐ろしい事が起こってたまるものか。確かにネットで検索を掛ければ悪い噂もあるだろうが、いきなり襲われる事はないだろう。
「それなら大丈夫です。ただ見に行くだけですから……ではありがとうございます」
会釈をして駅員から離れ、真美の元へ。真美はどうやらアナザースター社の大きな宣伝ポスターを見ていたようだ。
「大丈夫だったみたいだね。ねえねえ。この、世界に触れる、ってどういう意味だろう?」
「キャッチフレーズ?……そうだね、ロボットとかで世間に貢献するとかそういう意味じゃないかな」
「ほえー……さっすが!」
「……適当だよ?」
今なら推測が出来る。きっと『この世界』の話だけをしているのではない、と。こことは違う、『別の世界』の事も考えられているはずだ。そして裏の顔の『研究所』。
「なに難しい顔してるの?」
「ん?何でもないよ。とにかく行ってみようか。見学とか出来るらしいし」
「おお!それは楽しそうな気がする!」
元気良く改札を通り抜け、出口へ。ここで護は背中に駅員の視線を感じていたが、振り向く事なく真美の隣を歩く。まず飛び込んできたのは先程のドーム状の建造物。そしてその他にも複数の建物が綺麗に並んでいる。目で見える範囲の先にもまだまだありそうだ。そして視界の端、入場口と思しき箇所に警備員が立っている。まるで軍隊のような装備だ。
「どうする?今ならまだ引き返せるよ?」
それを見た真美は護を気遣ったのか、そのような事を口にする。しかし護もここまで来て帰るなどという選択肢を選ばない。たとえ危険だとしても自分の目で見ておかなければ。
「大丈夫だよ。行こう」




