「異能の世界」30
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時は流れ土曜日。あれからの二日間は特に何も無い穏やかな日常を過ごせた護。聖羅が言うには、あのように蝕が連続して同じような場所に出現する事自体珍しく、普段は滅多に行動する事はないらしい。極稀に蝕の存在が発覚しても近くに居る団体がそれを討伐し、処理していくとの事。つまり休日は休日として休む事が可能なのだ。特別仕事が無ければ、の話だが。
故に護と真美は今現在、電車に揺られている。目的地までは残り一駅と言ったところだ。いつものように味気の無い白いパーカーを羽織り、荷物持ち宜しく大きめの鞄を持たされている護。そしてその隣では楽しそうに話し掛けている真美。
「あと少しだけど……あれ?ここら辺って確かさ、何かおっきい会社の土地じゃなかったっけ?」
窓の奥、流れていく景色は白や灰色。微かに見えるのは人工的な建造物だろう。それも複数。
「そうなの?」
「そんな気がしたけどなぁ……あ、着いたみたいだよ」
「ところで……これ、何入ってるの?」
「え?特に何も。あった方が良いじゃん?」
「そう……かな?」
何故無駄に大きい鞄を持ってきているのか、護には理解出来なかった。そう言えば女子は鞄を持ち歩く事が多いのではないだろうか、と適当にこじ付け席を立つ。持たされている事には何も感じないらしい。
ホームに降り立つと、視界に飛び込んできたのは遠くに見える巨大な建造物。電車内で見たよりも大きく感じる。巨大と言っても、縦に長いのではなく、横に広いようだ。白一色で統一された大きなドームのような建物。
「あれ何だろうねー」
「さあ?あ、地図見てから行こう」
「え、めんどい……」
「迷うよりすぐに行けた方が良いと思うけど……」
両者の性格の違いがまたしても現れてしまうが、ここは護に従って案内図を確認する。しかし、ここで問題が発生した。
「ほら、やっぱり……!」
「これは驚きだね……どうしようか……」
目の前の案内図いっぱいに描かれているのは勿論地図だ。出口は二つ。正面口と西口。そこまでは普通の駅周辺情報だ。そこからは違う。書かれている単語は、研究棟第○号など。
「研究……まさか……」
その単語に護は引っ掛かりを覚える。そう、もしかしたらと思い注意深く文字を探っていく。目的の文字はものの数秒で発見。長い前髪の奥で目を閉じ、もう一度開く。文字が変わっていれば、もしかしたら見間違いかもしれないと思いながら。
「アナザースター社……」
「ああ!あの会社だね!ロボットとか作ってるんだよね!」
「う、うん」
「でもこれだと中は入れないのかな?」
地図を見る限り、出口以降はほぼアナザースター社の敷地のようだ。何の関係も無い一般人が入れるのだろうか。だが、ここまで来て引き返すのも後味が悪い。ここは行けるところまで行くのが筋ではないか。やると決めた事は貫きたい。その為には今ここで立ち止まっていてはいけない。まずは行動を起こさなければならないだろう。
「とりあえず駅員さんに聞いてみようか?」
「そぉだねー……ここで帰ったら時間勿体無いし」
きっと上手くいく、そう信じて護は動き出す。




