「異能の世界」28
*****
街中を歩くのにもコツが必要となってくる。この時期はまだ日が落ちるのが早いお陰でそれ程目立たずに移動出来るが、日中にやるとなればまた別に神経を使わねばならない。
ホワイトはとある場所へ向かっていた。勿論仮面にローブという見付かると注目されてしまう恰好だ。しかし、こうしなければならない理由がある。街中のどこにカメラが仕掛けられているか分からないからだ。人通りの少ない裏道と暗がりを選びながら風を切って駆け抜けていく。靡くローブが鬱陶しく感じるが、気にしてはいられない。
向かうのは郊外だ。本日の集合場所である。噂というのは足が速く、一箇所に留まっていればすぐに広まってしまう。それ故にホワイトを含めた『救世主』と呼ばれる者たちはこうして場所を変えて集まっているのだ。
「遅かったじゃないかホワイト」
到着したのは使われていない工場跡地。錆びた工具やドラム缶などがそのまま放置されたほぼ荒地みたいな場所だ。そこに集うのは街の不良グループではなく、真っ白なローブと仮面で自身の姿を隠している者たち。見た限り、ホワイトを入れても十人程度だろうか。それぞれが適当な位置で適当に座っていたり携帯を弄っていたりと統率性は皆無。そもそもここでは誰が誰なのかほぼ分からないと言っても良いだろう。ホワイトに声を掛けたのは大きな体を持つグレイヴ。この中でも一際目立つその巨体。ローブで隠している意味はあるのだろうか。他の者も大小様々な形をしているが、ローブを脱げば至って普通の人間体系。あくまでも予想だが。
「『機関』の連中に絡まれてね」
「なに!?連絡しろよ!」
「急いでたから相手はしてない」
「そ、そうか……無事なら良いんだ」
この大男が近場で大声を出すと空気まで振動して相当な破壊力を持っていそうな気配がするが、この場に居る人間は誰一人として動じない。
「よし、これで全員集まったか?」
その中の一人。声から判断するに若そうな男性だろうか。細身ではあるが鍛えられた体つきをしているのがローブ越しからでも分かる。その男が中央に立つと、言葉を放つ。
「今日この面子に集まって貰ったのは他でもない。もう知っている人も居るかもしれないが……昨晩、また二つの仲間の尊い命が消えた」
死という言葉を体感し、場が一瞬にして静寂の海に沈む。
「ふーん……?だけどさ、それは別に集まる程の事でもないんじゃないのー?ウチらのやってる事は命のやり取りでしょ?それにいつもならそうじゃなかったし」
携帯を弄りながら発言したのは女性らしい。仲間の死に関して特に思うところがないのか、そのままの姿勢で続ける。
「死んだのは誰々だよって聞いたってその人の本当の素性なんて知らないし仕事仲間は決まってる。知ってて能力名と呼び名くらいでしょ?」
「そうだな……正直に言えばそこはほとんど問題ではない」
この『救世主』と呼ばれる集まり。名前に反して仲間への意識は薄いようだ。彼女の言うようにあくまでも仕事上の仲間、という事なのだろうか。
「じゃあ問題はないんじゃ――」
「そうか、蝕じゃないとするのなら『研究機関』だね?」
並べたドラム缶に横たわる者の発言が、今度はどよめきを生む。
「その通りだ。奴らの兵士に襲われたらしい」
「それは確定なのか?」
「ああ。間違いは無い。命からがら逃げて来た同士に聞いたからな」
どよめきは次第に恨みへと変わっていくのが肌でも感じる。それぞれの能力が怒りに応じて大気に漏れていく。それはホワイトも同じ。
「なるほど、それでどうするつもりだ?」
痺れを切らしたグレイヴは指の骨を鳴らしながら青年に問う。そこにはやはり静かな怒りが込められているではないか。
「そんな事は決まっているだろう。その為に集まって貰ったんだから――」
男はローブに隠されていた腕を曝け出し、力強く掲げ、宣言する。拳には煌々と輝く赤い炎。
「――我々は『研究機関』を襲撃する!」
*****




