「異能の世界」27
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護を一人だけ帰し、『出張所』に残った二人。これから何をしようと言うのだろうか。
「ああは言ったが……多分アイツはもう知っていると思うぞ?この通り」
大和の操作するパソコンに表示されているのは公園の映像。『研究所』の仕掛けた観測用のカメラ映像だ。その映像にはホワイトと呼ばれていた仮面の能力者と、護、そして蜘蛛型の蝕。蝕は地面から突出した氷の柱によって串刺し。しかし余裕な素振りを見せた途端、その体はカメラの範囲外へ。鋏角が護へと迫る。後退りし、数秒。
「そうね……この映像があるという事は知っていて当然なのよね……」
そう。これは『研究所』のデータベースから拝借している映像なのだ。しかもこの映像は『研究所』の人間ならいつでも閲覧する事が可能。見るのはあくまでも開発班や研究班などに所属している者に限られてくるが。
カメラの映像が揺らぐ。護の背後に倒れていた蝕が出火。焚き火のような小さな炎だ。燃え広がろうとする頃、映像に大きなノイズ。これはきっと聖羅の“招雷”の影響だろう。青白い稲妻が映った瞬間、そこで映像は途切れてしまう。
「動画自体なら消そうと思えば消せるが……これ一つ消したところでどうにかなる話でもないからな」
パソコンを折り畳み、息を吐く。ずれた眼鏡を直し、グラスに入った水を飲む。場所が場所だからか酒を飲んでいるようにも見えてしまうが、そこはしっかりと弁えてただの水である。
「それは分かってるけど……もし彼が能力者だとするのなら、彼も……それに、あの仮面たちだって……」
同じように用意されたグラスを両の掌で包み込むようにすると、小さく氷が震えていた。その震えは聖羅の体から伝わったもの。そこから連想するに恐怖。能力に対するものなのかは判断出来ない。それを隠すように冷水を口に含む。酷く冷たい気がした。
「そう怖がるなよ」
「だ、誰が……怖がってなんか……」
「強がるのも良くないぞ。大丈夫だ。俺は知ってるから」
聖羅がびくりと肩を震わせる。その原因は当然隣に座っていた大和だ。とりわけ大きかったり傷があったりする訳ではない普通の手。それが頭の上に乗せられたのだ。
「……何?セクハラ?こんな事されても大和には転ばないからね」
「まったく……昔とは大違いだな」
「昔の事を口に出そうとするなら電気流すわ」
「はいはい」
「返事は一回だから」
そうは言いながらも甘んじてその行為を受ける聖羅。理解者が居るだけで気持ちは楽になる。そして、この苦しみを味わわせないようにも護には気付かせないようにしなくてはならない。
「ねえ、もしかして紅野くんの記憶が無いのって……」
「その可能性としてはあり得る。だが確証はないな。そこら辺は調べておこう。何せ頭脳派だからな。会長はしっかり自分の仕事をしてくれよ」
「そうだったわね。じゃあ、私たちも帰りましょうか」
「頭脳派を軽く流したな……?」
能力者。異世界。そして蝕。この世には科学では解明出来ないものたちが人知れず蔓延っている。謎があるのなら解決する。それが『研究所』だ。
そしてこの二人もまた『研究所』の一員。謂わば研究員でもある。ならば、謎を追わねばなるまい。口に出さずとも、胸中で固く誓う。
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