「異能の世界」26
真美が引き出しを漁り、護がその散らかった物を片付け易いように綺麗に纏める。ここにも性格が出てしまうらしい。
引き出しの中から取り出される複数のメモ用紙。どうやら店の住所や電話番号をメモとして残してあるらしい。何ともマメである。ただ真美が適当に取り出したせいで元々並べていたのだろう順番はバラバラになってしまっている。しかし、ここを探せばもしかしたら何かが見付かるかもしれない。
「凄いねこれ全部お父さんの字だよ。メモ好きなんだねぇ……私はこんな事したくないなあ」
取り出したメモの内容を適当に確認しながらそんな事を漏らす。確かに真美はどちらかと言えば面倒臭がる性格だ。先程の課題なんかも護が帰って来るのを予測して、それから始めたのだろう。言い方次第かもしれないが、人遣いが上手いのかもしれない。
今現在も護は見落としが無いか二度は確認作業をしているのに対し、真美はパッと見で判断。引き出しの中に投げるのだ。
「ああー!これじゃない?うん、これだと思う!」
一見適当にやっているようでもあったが、実際はそんな事がなかった。自分でやり始めた事はきっちりやり終える。そんな彼女が手にしている薄いピンクのメモ用紙。それを護の眼前に突きつけしたり顔。
「見えないよ……」
「あ、ごめん。テンション上がっちゃったの~」
こうもあっさり見付かるとは思っていなかった護。真美から用紙を受け取り内容に目を通す。少し草臥れた感じの受ける用紙には――
「兄、住所……これ、なのかな?」
丁寧な字で書かれた数字を含めた文字列。他の文字とは少しだけ違う気がする。
「もうね、絶対それ!それじゃなかったら見付からないと思うよ!」
疲れてきたらしい真美は再びソファに寝転がると足をバタバタ動かしながら言うではないか。護は他の物を片付けながらもじっくりメモを見続ける。これが本当に目当ての物ならば、と。
「でもいきなりどうしたの?今までは気にしないようにしてたのに」
「どうしたって聞かれると……んー何となく、かなぁ……」
「へえ……珍しい事もあるもんだ!あのお兄ちゃんが理由もなしに外に出るだなんて!」
「そんな人を引き篭もりみたいに言わないでよ……ただ、自分の事なのに思い出せないのが……」
「ん?」
どうやら自分はそのように思われていたらしい。確かに休みも理由が無ければ家で大人しくしている事が大半だが、引き篭もっているつもりはないのだ。これは心外である。
「何でもないよ。それじゃあ、その、ありがとね」
「お兄ちゃん……行くの?」
今までとは違う、どこか重みのある言葉。きっと護が過去の事を思い出してダメージを受ける事を心配してくれているのだろう。
それはとてもありがたい事だ。理由も無く何となくで行動しようとしている護を引き留めようという意味も含んでいるはず。
「うん。いつか行かなきゃダメかなって思ってたんだ」
「もう……嘘が下手だよお兄ちゃん。顔に書いてあるよ。分かった!私も付いてく!」
そんな護の心配などお見通しだったようだ。ソファから体を起こし、心の弱そうな義理の兄の為に立ち上がる。
「え?いや、僕一人で大丈夫――」
「ダメ!私も行くの!土曜日ね!買い物付き合って!」
「あぁそういう事か……」
「ハッ!?つい本音が……」
しかし、これで護も進む事が出来る。ここに行って何かが変わるとも思えない。それでも何もしないで、何も知らないのは嫌だった。たとえ過去の傷を抉る事になっても、自分で進むと決めたのだ。
手の中にあるメモ用紙。潰さない程度に強く握る。決意は固い。
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