「異能の世界」25
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それから二人とは別れ、護は一人で家路に。一人で帰らせて大丈夫か、と不安がられたがさすがに二度も三度も遭遇する事はないはずだと判断したのだ。それに二人にはまだやらなくてはならない事があるとの事。しかし、まだ護の手助けは必要が無いらしい。それもそのはず、自分はほんの少し体験があるだけでそれ以外はただの高校生なのだから。
だが何も出来ないというのももどかしい。だから護は珍しく行動に移す。家に到着し、まず目指したのはリビングだ。共働きの両夫妻はまだ帰っていない。しかし、彼女なら居るだろう。
「ただいま」
「あっお兄ちゃんおかえりー!ねえこの問題の答え教えて!答えだけね!やり方とか聞いてないから!」
「解き方なら教えるよ」
「ええっ……それはマジでいらないんだってば……」
露骨に嫌がるのは真美。義理の妹と言えば確かに魅力的な響きかもしれないが、太ももが丸見えの短めのパンツに胸元のゆるい半袖という出で立ちでソファに寝転がっているのを他人に見られたら恥ずかしいものだろう。護も若干ながら目を逸らしながらの対応である。
「ねぇ~こ・た・えぇ~」
じたばたとソファを蹴る真美に呆れた様子の護。溜め息を吐きながらも広げられているプリント用紙に顔を近付ける。どうやら数学の宿題のようだ。受験生ならこの程度は頑張って欲しいところではあるが、護はかなりのお人好し。困っているのなら助けてあげよう。
「おぉ!さっすが!めっちゃ早い!……あれ?お兄ちゃん今日何か食べてきたの?」
「ん……そうだけど……良くわかったね」
「ケチャップの匂いがするよぉ……お腹すいたなぁ……」
借りたペンですらすらと答えを導いていく護のケチャップ臭に気付いた真美は仰向けになり腹の辺りを擦る。最早自分で問題を解く気はないらしい。
そして護自身も勢いでほとんど解いてしまっているではないか。ふと我に返ってやり過ぎてしまった箇所を消していく。
「はい、こんな感じで良い?あとは自分でやりなよ?」
「やったね!消された部分は……見えない!だから明日学校で見せて貰おっと!」
「……僕の言葉聞いてた?」
「ふっ……聞こえなかったね!」
問題のプリントを二つ折りにすると反動を付けてソファから飛び上がる。
最初からこのつもりだったのではないか、と護は肩を落として落胆。しかしまだ話があるのだ。彼女も知っているかどうかは分からないが。
「真美ちゃん、ちょっと聞きたいことあるんだけど……良い?」
「んっ……ふう……何?何の話?勉強の話なら私はこれから耳を塞ぎますけどっ!」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して一口飲むと、そのような事を言いながら両手を耳の横へ。相当警戒しているようだ。
「仮にも受験生だよね……?そうじゃないよ。全然関係ない話」
「あ、それなら聞く~」
飛び込むようにソファに座り直し、護の言葉に耳を傾ける。この飛び跳ねる様子は小動物のようで可愛らしいが、外でもこのような感じで生活しているのかと護は不安で仕方が無かった。
「真美ちゃんは……僕の家の場所って知ってる?」
「ん?家?ここじゃないの?」
頭に疑問符が浮いているような顔だ。それもそうだろう。いきなり良く分からない内容の質問が現れたのだから。
「あー……ここに来る前に住んでた場所の事なんだけど……うん、知らないなら大丈夫。ごめんね」
聞き出すのは難しいかもしれないと判断した護は即座に立ち上がって自室へと戻ろうとする。
しかし真美は難しい顔をしながらも、何か思い当たる節がありそうだ。護が部屋の扉へ差し掛かった頃、声を上げる。
「あ!多分知ってる!ちょっと待って……今思い出せそう!それに確かお父さんが住所か何か隠してたはず……」
勢い良く立ち上がると向かったのはリビングの端にある引き出し。電話帳や文房具などの小物が収納されているその引き出しを漁る真美。そこに一体何があるというのだろうか。




