「異能の世界」23
[うん、まあ……知りたいっていう欲求は研究者としては正しい感覚かもしれないよねえ]
期待した通りの答えではなかったからなのか、先程までのテンションの高さが見られない武蔵。だがしかし、これで護の意思は確かめる事が出来たはずだ。
「それじゃあ紅野くんは……?」
[そうだね。正式には決まってないけどこの時点で僕らのお仲間になった、という訳だ。おめでとう!歓迎するよ!]
モニターの向こうから強めの拍手。まるで周りに何人か居るかのようだ。ただの演出なのかもしれないが、その事で護の気持ちは少しだけ落ち着く。拒否されてしまったらどうしようかと思っていたようだ。
「は、はい。よろしくお願いします」
[聞いてるかもしれないけど、開発班だと今のところは大きな仕事は無いから……まあそこは大和に聞いてくれれば良いのかな]
そう言われ、護は視線を移す。
料理が完成したらしい大和。作っていたのはオムライスだ。皺はほとんど見られず、綺麗なドーム状の黄色い卵。そこには波と言うには少々尖っているケチャップがかけられている。とても美味しそうだ。そして料理をしながら片付けまで手を回している。この手際の良さは普段から料理をしている人間の証だろう。
「この人の意見には同意したくないが、そうだから仕方ない……」
完成したものを護と聖羅の前に出しつつ、大和は言う。相当武蔵の事が嫌いらしい。たった数日だけ行動を共にした護でも大和の気持ちの機微は伝わってくるのだから。
[オムライスか。美味そうだなあ……最近食事と言う食事をしていない気がしてきたぞ!]
「体壊しますよ?」
[大丈夫!僕には研究出来る力さえあればね!]
こちらは根っからの研究好き。まさに先程大和の言っていた極論のよう。食べなくても生きていける、に似たような思考だ。
[じゃあとりあえず紅野君の話題は終了っ!続いては?と言うか聖羅たんはそっちを聞きたいんでしょ?]
「その呼び方はとっても気持ち悪いのでやめてください。体に電気流しましょうか?」
[君も冗談が通じないようになったねえ……僕は悲しいよ!昔は違ったのに!で、あれだよね。さっきも遭遇した謎の能力者について]
「本当に、いったいどこから情報を……」
確かに武蔵の言うようにその件を聞きたかったのもある。だが、先程出くわしたというのはその場に居た三人以外は知らないはずだ。それなのに武蔵は既にその情報を手にしている。『研究所』の情報網か、又は武蔵の能力なのか。
[そう怖い顔しない、しない!皺になるよ!]
やはり彼は只のお調子者という訳ではないのだ。護の中で武蔵という人間の力が計れず、『研究所』という組織の恐ろしさも同時に感じる。
[種明かしするけど、別にそのパソコンで盗聴してる訳じゃないよ。さすがにプライバシーは守ってあげるよ。それに僕らはいつものように研究をしていただけ]
「……なるほど。事後観測か」
[ご明察だよ大和。あくまでも研究の範囲内。あの公園の近くのカメラで観察中だった、という訳さ。蝕の反応があったから回してみたら……ね]
どうやら今回はただの偶然だったようだ。しかし、これで聖羅たちの出会った能力者の素性が割れるかもしれない。昨晩までの情報では能力系統しか分からなかったのだから。
武蔵の言葉を待っていると、何やらモニターの向こう側が何やら騒がしくなっている。人の足音やまるで警報にも似た何か。どうかしたのだろうか。
[っと……ごめん。ちょっと忙しくなりそうだから一気に言うよ!結論!氷結系統の能力者はいっぱい居るから誰だか判別は難しい!てか無理!デカイ斧の方も同じかな。そもそもうちに登録されてない可能性が高いよ!それじゃあ切るから!また掛けてね!ばい]
[切断ヲ確認。再接続シマスカ?]
早口で捲くし立てた挙げ句、自分勝手に通話を切られてしまった。点滅するモニター上のアイコン。
「疲れたし何の情報も無かったわ……」
「まさかアレが出て来るとはな。もっとマシなのを呼び出せるようにして欲しい」
通話が終了した事で二人には疲労感が現れたらしい。
しかし護は逆に安堵したような表情だ。緊張が解れたような。




