「異能の世界」21
モニターから発せられる喧しいこの声の主は武蔵という人物らしい。声から察するに男性だろう。機械経由の為なのか非常に若々しい声だ。イメージしていたような研究者とは程遠い。それに何よりこのテンション。
[何故真っ暗なんだ!これじゃあ聖羅の可愛らしい顔が見えないじゃないか!]
「別に、見なくても良いですよ。見世物じゃないですし」
[ああっ冷たっ!能力は氷結系統じゃないのに冷たいとはこれ如何に!]
相当面倒臭そうな人間である。お人好しの代表と言っても過言ではない護ですらこの騒がしさには顔を顰めて退いてしまう程。
「いい加減に担当替われよ。アンタじゃ話が終わらん……そもそも始まらない」
痺れを切らした大和はなかなかに呆れた声音で武蔵へと苦言。その間にもしっかりと盛り付けていく辺りは手際の良さが垣間見れるだろう。
[おお?そんな事言って良いのかな大和~?このパソコンのデータ、全部消し飛ばしちゃうぞっ]
裏声を出して可愛いと思っているのだろうか。一向に話が進まない事に聖羅も苛立ちを隠せないようだ。今にも能力を使いそうな雰囲気でうっすらと見えるアナザースター社のロゴを睨み付ける。
「ふん。データのバックアップは基本だろう?既に別のに保管してあるさ」
[……そいつの接続履歴辿ってやろうか?]
「随所に仕掛けた全ての罠をアンタがミスなく解除出来ると言うのなら、やってみると良いぞ」
[へぇ……そんなに自信あるんだあ?本気の僕に敵うとでも思ってるのかい?だとしたら、思い上がりも良い所だね]
二人にしか見えない火花が散っているようだ。しかし煽ってばかりでは話が進まない。大和は諦めて口を噤む事に。聖羅は敬語で武蔵に話しかけるが、大和は違う。この二人の関係性は一体何なのだろう、と護が思考を働かせていると、その武蔵が護に対して言葉を投げ掛けてきた。
[で、その少年が言ってた紅野君だね?はじめまして。プロフェッサームサシだよ]
「は、はじめまして……紅野護です」
「見えてるんですか?」
[もち!だってそこは『出張所』。カメラの一つや二つ、こっちでも管理出来るよ。やっほー。手を振るけどそっちからは見えてない!だからカメラを回す!ちょっと光ったりもする!]
言われたように頭上を確認すると天井に取り付けられた黒いドーム型カメラが、ゆっくりとではあるが駆動音を鳴らしながら回転している。そしてチカチカと赤く明滅。どうやら武蔵の言った通り、こちらを視認出来ているようだ。
[えーさてさて……紅野護、十六歳。来月の五日が誕生日だよね?血液型はA。とても穏やかな性格で成績優秀。良く怖い感じの人に絡まれるが実は知り合いだったりもする]
急に始まった護のプロフィール公開。しかし、そのどれもが当たっている。言葉を出す事も出来ず、ただただ頷く護。
[そして両親は蝕に襲われて他界。その時に家は焼失。周辺を焼き尽くす大火事になったんだよね。今は父親の弟の家に居候中。ただの高校生として過ごしてきた。が!商店街で蝕に襲われ、そこで聖羅に助けられちゃって、そこに居る!ざっくりこんな感じまで調べてみたよ!いえい!]
「正解……ですけど、ちょっと待ってください……調べたとかも気になります。でも、焼失ってなんの事ですか?僕は、そんな事……」
[ああ知らないんだっけ?じゃあ逆に聞くよ?君さ、自分がそれまでに過ごしてきた家の場所、思い出せるの?]




