「異能の世界」20
カウンターに置かれたパソコンのモニターに表示されたのはある会社のロゴマークだ。それは世界的にも有名で、知らない人はいないと言っても過言ではないだろう。中心に五芒星、その左側に寄り添うような三日月型のマーク。
「この会社って……」
「そう、世間では医療用機械とかロボット研究とかを売りにしてるアナザースター社ね。私たちは面倒だから『研究所』って呼んでるの」
「……ここが、ですか?」
「そのお陰の科学力だ。世を忍ぶ仮の姿というやつだな。表向きにこんな活動を公表したらどうなるか分かったもんじゃない」
大和の言う通りだ。蝕や、それこそ聖羅のような異能力を持つ人間の事が知られてしまえば大混乱が起きるだろう。実際に護も目の前にしても信じられない事が多々あるのだから。力有る者が居れば、無い者はただ怯えるだけ。たとえ誰も知らないところで彼らを守っていたとしても。
[コチラハAS異世界研究チーム。確認コードヲドウゾ]
パソコンから流れてきたのは無機質な機械音声。ただ、その中で異質に感じたのは異世界という単語。そしてそれを研究しているというのがこのアナザースター社。直訳するともう一つの星、という意味ではあるがそんな安直で良かったのか。それにこの会社は護が生まれる前から存在しているはず。
「もしかして、ずっと?」
「そうだな。この世界はいつからか異世界を意識するようになったんだろうか」
野菜を丁寧に刻みながら大和は言う。しかし、その答えは分からない。きっとこの会社の人間なら知っているのだろうが。
「篠宮聖羅。対蝕戦闘班所属……能力系統は雷よ」
[認証中……]
聖羅はすらすらとそのロゴマークに語りかける。モニターは相変わらずロゴマークのまま。たまにそのロゴに光が入る程度で面白みはない。それから待つ事数十秒後、再び音声が入る。
[声紋一致。担当者ニ変ワリマス]
ここに来て初めてロゴマークが回転。まるでゲームのロード画面のようにくるくると回りだす。この動きは時間で変わるのかもしれない。無音になったそれを見ながら護は疑問を投げ掛けてみる事に。
「これって声だけでしっかり本人だって確認出来るものなんですか?」
「さあ?」
「即答ですね……」
「そういうのは大和の仕事だから。私も気になってはいたけどこの情報が漏れるだなんてそうそう無いだろうし」
そう言って聖羅はカセットコンロの火を調節している大和に視線を移す。当の本人もそれには気付いていたようで、低い姿勢のまま口を開く。
「正直なところ、出来ていないと思う。ただ一種の通過儀礼みたいなものだろうな……機械とネットを通したら微妙な違いがあってもおかしくないからな」
「そういうもの?」
「最悪カメラをハックして確認してるんだろう。あっちの内部事情は正直よく分からないから――」
[そうそうその通り!さすがは大和!大・正・解!]
急に発せられた大声に護は身を竦ませながらモニターを凝視。しかし、画面は相変わらずのアナザースター社ロゴマーク。
「よりによって何でアンタなんだ……」
遮られた大和は若干不機嫌そうな声を出しつつ手を止める。そして近くにあった雑巾でパソコンの上部に多い被せた。そこにはどうやら小型のカメラが取り付けられているようで。
[お、おぉ……!?何も見えないぞ!蝕の仕業か……!おのれ蝕め!]
「あの、この人は……」
「あー……こんな言動だけどこれでも研究の責任者の一人なの」
[そうだぞ!僕は偉いんだ!武蔵!だからプロフェッサームサシと呼び給え!]




