「異能の世界」11
自宅への道をぼんやりと歩く。日もほんの少しだけ傾きつつありオレンジ色の光が徐々に強くなってきているこの街。その裏側には異世界と繋がっているという嘘のような真実。自分の横を通り過ぎる人々はそれを認知する事が出来ず、関わることもない。だが護は、その存在を知った。つい一昨日――いや、本当に護が関わった『最初』は、もうかなり前の話だった訳だが。考えながらも、歩くスピードは変わらずゆっくりである。歩き慣れた道なら目を瞑って、とまでは言えないが、それなりに無意識でも歩く事は不可能ではない。
しかし、ここで護は家路に着くという選択をしなかった。その足は自然と、吸い寄せられるかのように別の方向へ。特に理由はなく、それに行ったところで何かが分かるという確証もない。ただ何となく行ってみようという軽い気持ちである。ここまで行動的になるのも珍しい。普段なら特に用事も無ければ家に帰るだけなのだ。
(ただ、なんとなく……)
行く場所は決まっていた。昨晩、異能をその目で見て、全身で感じた場所。あの公園。諸星邸から公園までは近くもなければ遠くもないという距離。そのくらい歩けば護の家にも到達出来る距離である。特に変わった様子のない街並みを視界に入れながら、公園まで足を動かす。
まだ早い時間だというのに、桜の木で囲まれた公園には一切の人影がない。確かに遊具も少ない小さな空間ではあるが、それでも小さな子供達が集って遊ぶには十分な広さを持っているはずだ。それとも昨今は外で遊ばないでゲームをしている子供の方が多いのかもしれないし、子供を制限するような禁止事項が設けられているのかもしれない。そんな事を思いながら、護はゆっくりと踏み入った。
綺麗に咲き誇る満開の桜。本当に、これらが一晩の内に大量に散って、それがまた元の場所に戻された、などと誰が思うだろうか。それ程までに完璧で、完成された技術。これはどこかで“日常”に応用されているのだろうか。
この公園を一周するのにそんなに時間は掛からない。ほんの十分程度、特に目的もなくぶらついてみた。
「これと言って発見もない、かぁ……」
最初からそのような気はしていたが、ここまで成果が見られないと少々残念な気持ちも生まれてくるものだ。強いてあったと言えるのは、純粋な感動である。あれだけ派手に壊れて壊されて、それが全て修復されて今現在。凄い、と。
ベンチを見つけ、そこに腰を下ろす。ここだけは静かな時間が流れていた。優しい風が木々を揺らし、散った花弁が吹雪のように舞う。幻想的で、だけどどこか儚げで。
「懐かしい……?」
ふと、頭に過ったそんな感覚。記憶だろうか。だが、護に思い当たる節はなかった。思い違い、という形で処理しておく事に。
「収穫もなかったし……帰ろうかな」
息を吐き出し、立ち上がる。帰ったら何をしようか、と考えながら。する事など勉強くらいしか浮かばないが、これが通常の護だ。鞄を持ち上げ、入り口の方へと視線を向けようとすると、目の前に影があった。とても近くに。それが人の影であると理解するのに数秒掛かってしまう。一体、誰がこの人気の無い公園に来るのか――来てもおかしくはないのだが。




