「異能の世界」09
彼と肩を並べて二人で歩くというのは、過去を振り返ってみても意外と少ないのかもしれない、と護はふと思う。何せ昨年はクラスも違った上、学校で見かけた回数も少なかったような気もする。それに隼士は授業が終了と同時に全力で飛び出していくような人間だ。学校に残るなどという考えは持ち合わせていない。行事の際には率先して残っているらしいが。
「でもさ、諸星が居なかったらどうする?」
「出掛けてるってことじゃないのかな。ほら、急にバイトとかで呼ばれたとか」
「わざわざ高校生を呼び出すバイトがあるかねえ……あいつが出てくとしたら、そりゃあもう英雄様のお仕事の方だろ」
「好きだね、その呼び方」
「実際ムカつくくらい強いもんあいつ」
これから向かおうとしている諸星家まではそう遠くはない。巻き戻された桜が舞う公園を通り過ぎ、密かに怪物に襲われた商店街を抜け、迂回せずに裏道を通ればすぐそこだ。
「あ?こっち通行止めなのかよ……」
「そう言えば何かあったって聞いたね。危険だから塞いでるのかも」
「どうせランク下の弱小グループのいざこざだろ?んなの気にするなってんだよ」
この裏道。何やら事件が起きたらしく、一時的に通行止めという処置をしているようだった。とは言ってもただ赤いコーンに注意を促す張り紙がしてあるだけだが。
「よし、無視けってーい!行こうぜ!」
堂々と直立している赤いコーンを蹴飛ばし、路地にプラスチックの音が鳴り響く。進入には全く以って躊躇がない。しかし反対に護はこのような小さな張り紙ですら律儀に守ろうとする人間である。勿論の事ながら足は止まるし周囲の視線は気になってしまう。
「え?ほんとに行くの?」
「だって回ったら遠くね?」
「それはそうだけど……」
「別に死にゃしねえって。お化け屋敷なんかより怖さもないぜ」
護の頭に疑問が二つ浮かんだ、その例えはどうなのか、そもそもお化け屋敷で怖がると思われているのだろうかと。苦手ではあるのだけれども。
「それにここはウチのエリアだぜ?そこ理解してもらわないとなー」
「うーん……」
「犯罪じゃないから良いんだって!ほら!」
相変わらず意地の悪そうな顔で笑みを作り、護の肩に腕を回してそのまま出発する隼士。これでは本当に絡まれてしまった不運な高校生のようである。
「しっかし最近色々聞くよなー」
「聞くって何を?」
諦めて連行される護は隣にある整った顔へと視線を投げた。すると隼士は目だけを動かして何故かひっそりとした声で言葉を続ける。妙に真剣な声色で。
「なんかな?知らないうちに窓が割れてたーとか地面にヒビがーとか。ある奴に至ってはバケモノ見たって言うんだぜ?それもそこそこの人数……まあ周りだけの話だけどさ」
「……そうなの?」
「ああ。だからもしかしたら――」
彼は何か重要な事を知っているのではないだろうかという考えが過る。しかしそれは見事なまでに打ち砕かれる。
「――ここで俺らが大活躍すれば、一躍有名人じゃね!?若者の集団が原因を突き止めました!とかさテレビでやってさあ!」
「あ、あはは……」
どうやら余計な考えだったらしい。彼は、隼士はいつも通りの隼士である。
「だからその時はもちろん紅野にも協力してもらうからな!」
「ちょっとあんまり揺らさないでよ……」
肩に回していた手を今度は頭へ。細身の腕からは分かりづらいが、良く見ると傷だらけの手で護の髪をぐしゃぐしゃにする。嫌がりながらも特に抵抗はしない護。したところで止まるとも思えないからだ。
「ほら、着くから止まって」
暗い路地を抜けると、そこにはようやく目的地。




