「異能の世界」06
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修復されていく小さな公園。散って破れた桜の花弁も逆再生されるように元の枝へと還っていく。
「それにしても、今回の戦闘でまさか赤字になるとは……」
手元のパソコンを叩きつつ大和は言う。護も覗き込んでみると、どうやらそこには彼の言うように金額が書き込まれているようだ。
「二ヶ月連続な上に開発途中の槍まで折れて……どうするか……」
「まだ返上出来ないって額でもないでしょ?」
「そうだが、それをやるとなればほぼ毎日大型の蝕と接触、戦闘をして、且つ被害も少なくしなくてはならない。しかもそれを全部こっちで発見からやらないといけない」
「人数的にも厳しい訳ね……」
人数、と言うのはきっと護も含めてのことだろう。しかし今の会話の流れから察するに、戦闘を含めてだ。現状、戦闘に参加出来るのは聖羅のみ。あれだけ動き回り、撥ね飛ばされ、傷だらけでもピンピンしている肉体であろうと人間の身だ。疲労が無い訳ではないだろう。
「会長が無尽蔵の体力の持ち主だと言うならそれも可能だが?」
「自分で言うのはあれだけど、か弱い女子高生ですから」
「まあ元々完璧に全部出現位置を特定しても日中なら間に合わないことの方が多いしな」
「なに?スルー?」
咄嗟にパソコンを庇う様に聖羅に背中を向ける大和。まるで先程までの激しい戦闘が無かったかのように談笑を交えているが、話の内容は相変わらず。護にはまだ付いていけない。
「あの、質問良いですか……?」
おずおずと二人の会話へと入っていく。気になったことは潰していくという真面目な性格なのだ。故に優等生などと周りからは呼ばれているが、本人はそこまで不思議な事ではないと常々思っている。そんな護の発言に二人は無言で頷く。
「この後ってどうするんですか?」
「あーそうね。とりあえず何も起きそうな気配がなければ帰宅。もうすぐ日付も変わるけど明日は学校もあるし」
「そうだな。たとえ“非日常”に生きてても普通の“日常”は捨てられない。だから何事も無かったかのように新学期の空気を味わうんだ」
だからこそなのか、先程から二人は笑いを交えた会話をしていたのか。しかし護にはそう簡単に切り替えられない。今日の事だってそうなのだ。切り替えられないからこそ外出し、過去と向き合うと決意し、ここに居る。
「その内慣れるから大丈夫!」
ビシッと強気に親指を立てる聖羅。傷だらけながらもこうして居られるのに慣れて良いものなのかは首を傾げる必要があるが、しかし、いつまでも止まっている訳にもいかないのが現状。進むべき道は見えているはずなのだ。
「が、頑張ります……」
「気負うことはない。戦闘は専ら会長に任せておけば良い」
「え?大和は引っ張り出す事もあるわよ?」
「……」
緩い雰囲気。それこそがこの二人のあるべき姿なのかもしれない。そうこうしている内に護は周囲の異変に気付く。とは言っても悪い意味ではないのだが。
「これで、修復完了ね」
聖羅の言うとおり、クレーターだらけで遊具の姿形も無くなっていた公園は、見事に元通り。少ない時間でここまで修復が出来る技術とは一体、と思った矢先に会話が戻る。
「ああ。盛大に暴れられたからちょっとばかし時間は掛かったが……」
「そこは気にしちゃいけない部分よ。さ、それじゃあ今日はこれでお開き!お疲れ様でした!」
手を叩いて、まるで本当はただ集まって遊んでいたかのような――そうなれば夜遊びなのだが――そんな軽い締め方。護は訳もわからずきょろきょろするだけだった。
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