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Promise―桜色の約束―  作者: 吹雪龍
第2話
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「異能の世界」03

 彼女はやはり午前中の授業では機嫌が良くなかった。自分が原因ならここは謝った方が良いのではないかという結論を導き出した護は、この昼休みにそうしようと決意。しかし、始まってすぐに彼女は教室を出て行ってしまったため実効に移す事が出来なかった。仕方なく朝に思いついた友人の下へと足を向ける事に。


「だけど良く考えたらあのクラス知り合いが……」


 教室付近まで来たがその考えに到ってしまう。尋ね人が居れば良いが、もし居なければ何となくではあるが気恥ずかしい。元々人見知りのある護にしてみればハードルが高かったのだ。


「どうしようかな……」


「おー紅野!どうしたんだ?」


「嵩田君?今来たの?」


 すると前方。妙に派手な人物が手を振って近付いてくるではないか。その風貌に昼休みの人だかりは道を開けて当人を通す。なるべくなら関わりたくない人間に見えてしまうのだ彼は。


「寝坊でっす!」


 真面目そうな生徒の目の前で敬礼している不良の姿は周りにはとても奇妙に思えたらしく、ひそひそと話し声が耳に入る。好からぬ噂が蔓延する前にどうにか止めて貰わなくては。朝の件もあるのだから。


「そんな堂々と遅刻した理由叫ばなくても……あと、敬礼しなくても……警察嫌いじゃなかった?」


「もち大嫌いだ!んで紅野は何してんの?」


「ちょっと昴に用事があったんだけど……他の教室って入りづら――」


 腕を組んでいた隼士はそれを聞いた途端、目の前の教室の戸を勢い良く開け放った。壊れんばかりの力で開かれた戸は大きな音を立てて揺れる。護は見ていないが、きっと教室の中はこの一瞬で静寂に包まれたであろうと予想出来てしまう。


「ちょ、ちょっと嵩田君……!?」


「諸星ー居るー?なんだ居ないのか。お、悪いな驚かせちまったか?」


 そんな事をやっても悪気が無いのが彼である。長い髪を揺らして楽しそうに笑う隼士は子供っぽいと言えば良いのか。


「あれ?あいつ昨日も居なかったよな?どうしたんだ」


「そう言えば……体調でも崩したのかな?」


「あいつに限ってそれはないだろうなぁ。家で寝てるんじゃね?」


「いやいや嵩田君じゃあるまいし。後で連絡してみるよ」


 しかし、そうなると相談相手が居なくなってしまう訳である。別に隼士に出来ないというつもりは無いのだが、少々口が軽い人間だと知っている護は、口を閉ざしておこうと決めたのだった。


「さてと、俺は教室戻って寝るけど紅野は?」


「僕は購買でも見てくるよ。昼まだだし」


「ふーん。なら俺は先に戻って――」


「じゃあ紅野くん一緒にお昼どう?」


 カバンを振り回して去ろうとしていた隼士の言葉を遮って現れたのは聖羅だ。男子の憧れの生徒会長を目の前に隼士は呆けたように口を開け、続いて護の肩を掴んで揺らすという行動に。


「っ!?おまっどこで、はぁ!?」


「痛いよ……あとちゃんと喋ってくれないと分かんないよ……」 「お友達?」


「うっす!嵩田っす!」


 彼は奏に想いを寄せているはずだが、と首を傾げる護。どうやらそれとこれとは別の話らしい。


「覚えておくわ。それじゃあ紅野くん借りても良いかしら?」


「マジっすか!紅野で良ければいくらでも!」


「そう?ありがとう」


「なんか勝手に話が進められてる……」


 置いてけぼりにされる護だったが、そこへ更に追撃だ。聖羅が来た事でどうやらさっきの噂話が加速しているらしく、朝の事件を知っている人間が憶測を膨らませて伝染させているみたいである。感じるのは危機感と焦り。どうにか逃げ出さなくては。


「嵩田君、ごめん……ちょっと悪役になってくれない?」


「ギャラリー無しにして欲しいってか?俺も気になってたところでな……簡単だ!」


「ごめん、ありがとう」


「良いって事よ!その代わり貸し一つな!」


 こういうところでは頭の回転が速くなる友人にお礼を言う。


「おいおいお前ら見世物じゃないんだぜ?」


 低く、しかし迫力のある声は近場の生徒を遠ざけ、その余波なのか遠目の方も散り散りになっていく。友人をこういった風に使うのは気が進まなかったがやってしまった事に変わりはない。


「ま、ここじゃこんなもんか。紅野も分かってきたじゃねえか?ん?」


「さすがに三年もつるんでるからね」


「まあな。それじゃあ俺も邪魔しないように去る!じゃな!土産話期待してるぜ!」


 思い出したように聖羅に一礼。意外と礼儀正しい部分もあるのだろうか。


「面白い子ね。紅野くんには縁が無さそうな人種だけど」


「あはは……見た目はあれでも本当は優しいんですよ」


「そうみたいね。それじゃあ、ちょっと生徒会室まで着いて来て」


 隼士は意外と高評価のようなので、後で報告してあげようと思った護。そしてふと気付く。


「会長、何で二年の教室に?」


「もちろん紅野くんに会いたかったからよ」


「!?」


 そんな素っ気無い言葉だけでも耐性の無い護にはかなりの破壊力があるというのを聖羅は知らない。

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