「壊れた歯車」03
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帰りのホームルームにて、短い自己紹介が行われることになった。担任の自己紹介は簡素で、名前と担当科目を発言して終わり。それから無条件に名簿の一番から割り当てられる。そして一番は、護だった。
「ええと……紅野 護、です。よろしくお願いします」
特に自分を紹介する事柄は無いので、簡単に済ます。担任からも短くやれ、と言われた事もある。流すような感じで、次々と紹介を終えていく。名前と顔を一致させるのが苦手な人にはあまり意味を成さないかもしれないが、頭の片隅にでも置いてもらえれば良いのだ。
「よおし、名前と顔は覚えたな? それじゃー解散」
最後の一人が言い終わった瞬間に、担任は教室を後にした。妙な静寂が起こったが、すぐに喧騒へと変わる。
「おう、護。何か長くなかったか?」
タイミングを見計らったかのように教室に入って来たのは昴だった。わざわざ待っていたのだろう。
「まあ長いと言えば長い、かな……逆に言うとそっちは早くない?」
「自己紹介とかは明日やるんだとさ。今やらなきゃならねえ事は……読書感想文だ」
「始業式終わってすぐなのに?」
鞄に荷物を詰めて立ち上がる。適当に詰め込む訳ではなくしっかりと揃えて入れるのが護のこだわりだ。
「まったくだ……意味分かんねえよな、あのおっさん……! 今日はせっかくバイトも休みだし、ゆっくり体休めようと思ったのによ……まあ良いや。途中まで一緒に帰ろうぜ?」
「あ、うん。僕は本屋に寄ってくけど……昴はどうする?」
「俺は図書館行って感想文を書く。本買ってまで書きたくないしうちにはマンガしか置いてないからな……泉川はもう帰ったのか?」
教室を見渡し、探してみる。どの女子のグループにも彼女の姿は無かった。
「残念だな……初っ端から思いっ切りからかってやろうとしたのにな」
「部活じゃない? 泉川さん、次期部長候補だし」
「……運動しか取り柄ないもんな」
顔を見合わせて笑う。まさか後ろに本人が居るとも知らずに。
「だ・れ・が! 運動しか能がないバカ女ですって!」
昴はニヤリと笑い、待ってましたと言わんばかりに一手を打つ。
「いやはや、見事に意味を理解してくれて助かるぞ。その頭の回転を少しでも勉強にまわせたら完璧だな泉川?」
「ああもう、こっちは色々忙しいの! あんまり邪魔しないでくれる?」
「……どうしたんだよ」
「別に」
それだけ言うと奏は自分の机の中から荷物を数点取り出し、二人を視界に入れないようにして走って行ってしまった。
「……なんだあいつ? 今日はやけに機嫌が悪かったみたいだが……お前、何かやったのか?」
「僕は何も……してない、と思う」
「曖昧だな。張り合いが無いのはつまんねえけど、仕方ないかぁ。んじゃ、帰ろうぜ」
自分が何かやったのかと真剣に考えてみるが、どうにも心当たりは無い。昴と会話を続けながらも頭の中ではその事が支配していた。勿論それは昴も同じだったようだが、やはり関係ないと割り切ったのかすぐに元通りである。