「壊れた歯車」22
探す。言うだけなら簡単だが、具体的に何を探せば良いのかはわからない。だから、とにかく歩いてみる。護が主に見ていたのはちょっとした茂みだ。桜の幹の付近にある何の葉とも知らない植物を手で掻き分け、“異変”、もしくは“異常”というものを探す。しかしふと思うのだが、そもそもそれらは目に見えるモノなのだろうか?上着に付いた葉を落としながら首を回すと、遠くの方では聖羅と大和も同じように、遊具や木陰などを探っている。
「……」
恐怖と緊張で震える手を慎重に、かつ素早く動かしていく。しかし、やはり何も見当たらない。もう少しで護が調べていた場所は、一周してしまう。どうやらここには無いようだ。
「紅野君の方も無かったか?」
一周しかけた頃、先に終わったと思われる大和がゆっくりと歩いて来た。口振りから察するに、こちらもハズレだったようだ。
「はい……先輩の方もみたいですけど……」
「ああ。こうなると、あとは可能性があるとすれば――」
「“扉”そのもの。それしかないわ」
今度は同じく何も見つけられなかった聖羅も加わり、原因を話し合う。と言っても、二人は既にわかっているみたいだが。
「……そうなるか。しかし、どうする会長?迂闊に攻撃して広がったりする可能性だってある」
「かと言って、何もやらないのはね……もしもあの中で待ち伏せしているのなら、先手を取るのもアリよ?」
「あの、空気を読まない事ですけど……、一つ質問しても良いでしょうか……?」
おずおずと護は手を挙げる。会話をぶった切る形になるので悩んだのだが、もしかしたら良いアイデアが浮かぶかもしれない、という考えだ。無論、何も知らない自分が思い付ける程簡単な問題では無いのは承知している。
「もちろん良いわ。何かしら?」
「さっきから会話に出て来てる、“扉”っていうのは、あの亀裂の事で良いんですよね?」
「そうだな。この業界ではそう呼んでいるが……それがどうかしたのか?」
「僕が気になっているのは、その由来なんですが……それと、“扉”と呼ばれるという事は、無理矢理閉める事も可能なんじゃないかと……」
物事には何らかの意味があってその名が与えられるはずだ。言葉通りの意味の“扉”ならば、開閉が可能なはず、と。その素朴な質問には大和が答えた。
「厳密に言えば、あの亀裂の奥に“扉”が存在し、そこが開くのと連動して他世界に何らかの異常が起こる。もしくは引き起こされてしまう……というものだ」
「じゃあ、やっぱり閉められるんじゃ?」
「言葉で言うのなら簡単だが……実はこれは先人達の予想なんだ。だからあの中がどうなっているのか、どこに繋がっているのか、どうして発生しているのか、まして閉じる理由すら、わからない。あくまでも伝聞のみ。確かめる術がないからな。お上に居る人間は知らないがな」
眼鏡のブリッジを押し上げ、表情を隠す。お上、というのは一体どういう事なのか、と更に質問を投げる前に大和は遮る。
「だから、こうやって手を倦ねているんだよ。会長は相変わらず攻撃する気満々だが……正直、こんなケースは初めてでね」
「そう、ですか……」
聞いていた護は、やはり何も思い浮かばないのか、俯いて目を閉じる。何とか捻り出そうとするが、上手くはいかない。
そんな中、聖羅が動く。バチバチと紫電を走らせ、“扉”に向き直る。
「思い立ったら行動が一番よ。一発ぶち当ててみるわ」
「お、おい会長……? 本気か?」
「大丈夫よ。藪蛇にならなきゃ良いんだからっ!」
「なったらどうす――」
言いながら、紫電の塊を“扉”に向けて発射したのだった。近場で起こる閃光に目を逸らす二人。まじまじと見ていたら目が焼けてしまうだろうという本能的な回避だ。




