「壊れた歯車」02
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槍を携えた男が居た。荒野の中心に立ち、片方の瞳に焔をたぎらせ、穿つべき敵を見据えている。
「我が名は片目の英雄!――」
純白の槍は異形のそれを、勢いを殺すことなく刺し続けた。殺し続けた。
「――戦の神の力を借る者なり!」
一突きで何万もの異形を刺し穿つ。横に凪げばたちまち風が巻き起こり、投げれば遥か遠方に居る異形までをも貫く。炎は上がり、雷雲を呼び、地を砕き突き進む。それはまさに、英雄の姿。
「あの日の約束を果たすまで……さあ来い! 命を、我に――」
その背中は大きく、誰からも憧れを受けていて。しかし彼の者は常に背負っていた。悲哀や憎悪、憤怒などといった強い負の感情を。しかし、それでも彼は自分の役目を全うする為に戦い続けた。いくら傷付いても、倒れても、体は止まらない。生きている以上進み続けなければならないのだ。
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「ん……」
護が目を覚ましたのは、ちょうど校長が話を終えた時だった。まともに聞いても面白い内容ではないので耳に入れていない生徒が大半だろうが。時折居る『どんな内容を話していたか』と質問してくる教師には辟易する。
(最近、寝不足かな?)
手で口を押さえながら、小さく欠伸。涙を拭っていると小さな声で護へと声が掛けられた。
「珍しいな、護が寝てるなんて」
「あ。昴は……別のクラスだったんだね」
「おう。で、お前はまた泉川と一緒か? 腐れ縁通り越して運命じゃねえの?」
隣に座っていたのは、諸星 昴という見知った少年だった。
小学校時代からの友人で、スポーツ万能・成績もそこそこ良いという自分でなんでもやってしまうタイプの秀才。彼の話によると、努力無しにここまではなれない、出来ない、との事。
それにしても、まさか今頃になって気付くとは思わなかった。
「今回のクラス替え、もっかいやり直してくんねえかな? 知ってるやつが一人も居ないって……どうよ?」
「大丈夫だよ。僕と違って昴は明るいし……」
「お前な……俺だって結構無理してんだぜ? それにお前はお前なりに頑張ってんだろ? だったらいいじゃねえか。誰にもケチつけらんねぇって」
彼は常に護の事を気に掛けてくれる。仲間内には非常に優しい男なのだ。だが、かなり話が逸れている。始業式で話すような事では無い気がするのだが。
「まあ、暇があったら泉川でもからかいに行くからさ」
「あ、あはは……泉川さんは迷惑だろうけど?」
「あいつ程からかいがいのある人間は居ないからな……っとそろそろ黙った方が良いか……」
先程から視線を感じていた昴が話を切る。気付かない内に段々と声が大きくなっていたみたいだ。
その後、ちょくちょく話し掛けてくる昴に対応していると、いつの間にか始業式が終わっていたらしい。クラス毎に退場していく生徒たちの波の中、再び昴が言う。
「だけど、何かあったらいつでも言えよ。俺はいつだって味方だからな」
「それは本当に心強いよ」
「当然だろ? 俺だからな。んじゃまたあとで行くわ」
「うん。またね」
去り際、そんなことをさらりと言ってしまうのが護の大事な親友であった。だからこそ彼には相当の信頼を置いているのだ。