「トップチームの実力!」21
空間固定技術。これは『研究所』が様々な超常的非常時に物的被害や人的被害を軽減すると同時に、研究の秘匿性を確保する為に使用される技術である。
つい先日までに使用されていた技術は、当事者の居る一定区域を【現地時間】で隔離し、保護を行うものだ。そうする事で被害を最小限に抑えられ、能力者の能力を最大限に発揮出来る。
勿論、メリットだけでなくデメリットも存在するのだ。
蝕の発生時、各能力者に因る対応が遅れてしまった場合、修復出来るのはあくまでも隔離した段階だけなのである。物も、当然人も。無くなったモノは元には戻せない。これだけの技術力を駆使してもだ。
「へぇ……質感までそのままね……」
聖羅が興味深げに撫でているのは壁。しかし、先程までの真っ白で面白みの無い物ではなく、突如として現われたビルの外壁だ――ビルが面白いかどうかは別だが――。
[位相安定。足場固定、大気固定、重力固定。被験者バイタル異常無し。脳波も……どっちかって言うと戦闘時寄りだけど異常無しにしておこう。どうだ会長、一応こちらからも状態の確認は出来ているが、現場に居る人間に聞きたい]
大和からの通信にも異常は見られないし、今のところは五感で感じる異常は無い。
ふと自分の掌に能力を発生させてみる。指の一本一本、関節、操作感、どれもいつもと変わらない。至って正常である。
「うーん……いつも通りって感じ。痛いとか辛いとか苦しいとか無いし。『研究所』にしては良いもの作ったんじゃないかしら? これで観光とか出来ちゃいそうね」
[理論上不可能ではないが場所を見るくらいしか出来ないし、人が居ないから店も展開出来ないな]
随分とお気楽な聖羅であるが、実際にこの場に立ってみるとそのような気持ちになるのも理解出来てしまう。街のつくりは精巧で、圧巻。現在はこの土地を模した物が反映されているが、技術的にはここではない全く知らない土地を展開する事すらも可能なのだろう。
一般向けに転用出来るとかなりの儲けが出そうなものだが、そういった開発は表に出さないのが『研究所』。せいぜいリアルなVR製品を作る程度に留まるのが目に見えている。
「とりあえず空間の方はなんとかなってるみたいだけど……ところで敵は?」
そう、聖羅が待っているのは擬似空間固定の実験結果ではなく、それに付随して行われるはずの擬似存在固定と呼ばれていたものだ。そして更にはその検体との交戦である。
だが待てどもその兆候は無く、暇になってきたらしい聖羅は探索を開始。
[設定はしているんだが……ちょっと聞いてみる]
「はいはい」
ごそごそ、と耳元で大和の動く音が。ここまで繊細に音を拾ってしまうのも良くないもので、聖羅は顔を顰めつつ身震いを。そして無音になったかと思えば即座に音声が戻って来る。
[もしもし、聞こえるか?]
「ええ。それで? 失敗なの? っと……これまでは触れないか」
適当なコンビニを見つけ侵入すると、中身まで再現されているではないか。気になってスイーツに手を伸ばしてみたが、空を切った。どうやらこちらは映像のみの表示だったらしい。
[いや正確に起動を確認している。だから、開発者の言い分はこうだ。実戦形式だと思って探せ、だと]
「……そう、そんな気はしてたけど」
[冷静だな]
「ここの人たちの考えそうな事よ、大体わかるわ。じゃあとりあえず探索開始していい? 大和のサポートはあり?」
何やら不具合があったのか、どうも聖羅と大和任せになってしまったようだ。しかしそんな状況でも取り乱したりせず、冷静に判断を下す。そうでもしなければここでの付き合いなどやっていられないのだから。
[大丈夫なはず。ただ地図データとリンクさせるのに時間掛かりそうだから、それまでは歩き回って貰う事になりそうだ]
「了解。それじゃ適当に周ってみるから任せたわよ」
[ああ、こちらからも頼んだぞ]
結局コンビニからは何も得られなかったが、方針は決まった。まずは索敵と地形の把握。いつも通りにこなしていこう。