「トップチームの実力!」20
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「あーなんかもうすっごい腹立つ……」
長い髪を後頭部で一束にしながらぶつぶつと独り言。真っ黒なウェットスーツにも似たこの格好をすると言えば、『研究所』でのトレーニングである。
しかもこのトレーニング施設、つい先日の襲撃で破壊された一画を全面改築――改築と言うよりは新築に近いものだったが、それにより建てられたばかりの新施設なのだ。
リサ御一行に関しての報告ついでに立ち寄ったところ、今日から使用開始可能だという事で一番に入れて貰ったのだ。
まだ誰も使っていない無機質な建物内。他のトレーニングルーム同様に防音・耐衝撃・耐火耐震・耐能力者と防御面では最高峰。しかし、特筆すべきはこの防御面でもなければデザイン性でもない。
[それじゃあ始めるが……聞こえてるか会長?]
「ん? ああ、うん。聞こえてるわ。今のところ」
聖羅の小さな耳に取り付けられているのはこちらも相変わらず馴染みのインカムだ。
今日渡されたのは最新式でバッテリー持ちが良くなったそうなのだが、その分重さが増したような気がしないでもないとは聖羅の談である。そもそも彼女の能力の都合上、電子機器とはすこぶる相性が悪いのでまずはそちらを改善して貰いたいところだ。当然何度も報告は行っているが一向に改善には向かってくれないのは悲しいが、仕方ない。
[え? マニュアル通りに通告しろって? ……わかりましたよ。会長、やれって周りから言われたから一応聞いてくれ]
「はいはい。いつでもどうぞ」
現在届いている音声は大和の物だけ、室外にいるその他の研究員とのやり取りは彼に一任している状態だ。それでも所謂サポートルームでどのような会話が行われたのかは大体想像が付く。
便宜上の通過儀礼を行え、と。
[これより、新設トレーニングルームにおける実験No.1、及びNo.2を開始。時刻は十八時……二十二分。実験名称、トレーニングルーム機能内擬似空間固定及び擬似存在固定。被験者、CODE:招雷。記録者、管理No.80100]
長ったらしい実験宣言。普段の大和であれば全部すっ飛ばして――聖羅がいらない、と言うからであるが――即座に開始されるのだが、やはりここは『研究所』の実験施設。面倒なルールからは逃れられないのだ。
「さぁて元多目的実験場の変わりっぷり、見せて貰おうかしら」
[ああ。それじゃあまず擬似空間固定っと……計測器に異常は無いですね? 会長のバイタルも問題無し。――――実験開始]
開始の合図と共にインカムにノイズが走る。それから、金属的な見た目をした室内が揺らぐ。地震のような揺れではなく、空間そのものが歪んだと言った方が良いだろう。
聖羅はその不気味さと、背中をなぞられるような奇妙な感覚に目を閉じる。しかし、それもほんの一瞬。次に目を開いた時には――
「うそ……ほんとに出来てる……」
――擬似空間固定なる空間が出現するのだ。