「トップチームの実力!」11
「ああ、これはよくあるやつだ……!」
真っ先に異変に気が付いたのは大和だ。パソコンを抱え逃げる体勢を誰よりも速く。何が起きても何も出来ないのでこうするしかないのだ。
彼の耳に届いたのはまず、そろそろ曲の終盤に差し掛かっているのであろうギター音に軽く混ざったノイズ。それだけならただの演出かもしれないが、恐らく違うのだろうと直感が告げた。
次に、砂埃の中に垣間見えるロボットの動作音。これも微かな違いだが、車のエンジンのように断続的に轟いていたそれが、ぴたりと一瞬止まった後に再稼動。更に低い音で空気を叩いていた事に気付いた。
「大和、どうしたの?」
「これはな会長。離れた方が良いやつなんだ。先に失礼するぞ」
「えっあ、ちょっと――」
足早に物陰を探す大和。颯爽と植木に身を隠す。するとどうであろう。予感は確信へと変わるではないか。
大気すら割る剛拳。突如として動きが加速した。それが向かう先には当然。
「紅野くん……!? リサさん!」
標的は護だった。目の前に居る敵性の存在を排除する為に放たれた全力の攻撃。訓練も碌に出来ていない護が今の衝撃を受けきれるはずが無い、ならば助けに向かわなくては。椅子を弾き飛ばすように立ち上がる聖羅。
「……ソーリー。なんかね? 壊れちゃった。えへっ」
「何よそれ……! 大和も気付いたなら教えなさいっての……! 私行きますから!」
顔の前で両手を合わせてウインクしながら舌を出す。こちらも必殺の一撃を持つはずであるが、どうやら聖羅には通用しなかったらしい。護の安否が気になるのか今にも向かおうとする。するのだが。
「は、放して……っ!」
動けない。駆け出すつもりが一切身動きが取れなかった。ただ手首を掴まれているだけなのに。まるでその場に縫い付けられているかのようだ。能力も発動出来ない。何かが詰まっているかのような感覚。
そして腕の先に居るのは、勿論リサ。にこやかな笑顔を湛えながら甘い声で言う。
「んーもう少しだけ、彼の力見たいの」
「でも、ですね? 紅野くんはまだ実戦経験だって少ないですしあんな危ないのは――」
二度目の衝撃。背後の校舎が軋むような大きなものが二人を襲った。何事かと視線を向けた時にもう一度、二度三度と続く。そこに在るのは、狂ったように拳を叩き付ける無機質な瞳。
落とす。
上げる。
また落として、上げて。
「さすがに危ないですって! 止めないと!」
砂埃で護の姿はまったくと言って良い程確認出来ていない。だが何度も何度もあの大きな鉄の塊で殴られているのだ。並の能力者でもあの衝撃を全て受けるのは難しいはずだ。それを護のような“初心者”が耐え切れるはずが――
「もぉ必死になっちゃって~かわいいんだからっ」
引っ張られて躓いたかと思えば、聖羅の顔には柔らかい感触。そう。リサの大きな胸に挟まれたのだ。抜け出そうにも体を腕でロックされており、これまた動けない。それを遠くから見る大和はどう思っていただろうか。否、聞くべきではないだろう。
「でも大丈夫だと思わない? あなた達の仲間、デショ?」
何とか柔らかい地獄から抜け出して顔を動かす。砂埃の中、垣間見えた。
片膝を突き、頭の上で両腕を交差させて目を閉じる護の姿が。能力は展開していないのか。叩かれる度に足が沈んでいく。
「どうするのかな~?」
変わらず楽しそうに、そして聖羅をぬいぐるみのように抱きかかえながら観戦するリサ。
抱かれている聖羅は不満気な顔の中に少しの安堵があるようだった。逃げ出せないのなら、能力も使えないのなら。せめてこうすれば良いのでは、と思い浮かんだ。
「紅野くん!!」
声を届ける事。轟音の中でも届くように大きく。これはリサも止めようとしない、という事は大丈夫なはずだ。
「それ――――“壊してもいいわ”!!」