「トップチームの実力!」10
護の両手に装着されている漆黒のグローブ。これこそが能力を発動する鍵となる。正確にはグローブ内指先に仕込まれている微細な針だ。
これはあくまでも護自身の解釈によって生まれたものであり、本来の発動条件とは異なるのかもしれないが今のところこの方法で失敗した試しが無い。
――出血量による能力の解放。これが今までの経験上推測されている発動条件だ。指先に取り付けられている針で指を傷付け、出血を促す。一般的な注射器に使用される物では細過ぎるらしく、ある程度痛覚へ刺激を与える為太めの針を何本か。
(なるべく最小限に……)
真紅に染められた視界。手中に渦巻く熱量。グローブ内に張り巡らされたワイヤーによる血液の循環によるものだ。
ワイヤーを使用しているのにも当然理由がある。それは、護自身の血液量。どうも貧血気味の護には長時間の能力維持が難しいらしく、周囲を焼き尽くす業火からまさに風前の灯程度にまで出力が下がってしまうのである。
それを補助するのがこのワイヤー。少ない血液だけでも長時間戦闘が可能なようにグローブ内に留まらせておくという機能なのだ。
「へぇ……あれがあの子の……」
聞こえないように呟くリサの目に映るのは徐々に大きくなる護の放つ炎。品定めをするかのように、じっくりと。
(右腕を上げた……また振り下ろしてくるんだろうから……)
能力発動時の護の思考はいつになく冷静だった。眼前で巨大な腕が自分に向けて落とされようとしているというのに、一切動じない。あくまでも練習、ならば自分の能力の練習もさせて貰おうという魂胆だ。
「最低限……最低限……サッカーのボールくらいの……」
しかし相手は練習だろうが何だろうが容赦はしないロボット。一向に避けようとしない護が居てもその腕を叩き付けようとする動作を止めよう、などというプログラムはスタートしなかった。故に、風を打ち破りながら行動を続ける。
「この、くらい……!」
耳には既に重低音の唸り声が聞こえていた。それが自身の頭上まで迫っていた事も感じていた。だからイメージしたのだ。壊すのではなく、あくまでも守る為の力を。
「あ、あれ……? そんな……」
想像したはずだったのは、サッカーボール大の炎の球だった。しかし、実際には――
「ワオ……」
「さすが紅野くんね。うんいつもより出力抑えられてるし」
「ああ。それでもまさか一撃で腕を溶かすなんてな。まだまだ『研究所』の技術力でも再現は出来ていないみたいだ」
立ち込める煙をぱたぱたと払いながら観戦する三人。いつもの護の能力を目にしている聖羅と大和からしてみれば、むしろ当然の結果だとでも言わんばかり。
「……?」
――伸ばした腕から放たれたのは天を貫かんとする巨大な炎柱。どうやら隔離空間を破壊したりはしていないようだったが、頭上に迫っていたはずの大きな腕は見るも無残な廃材と化しているではないか。喜ばしい事実のようであるが、護には納得がいかないらしい。
首を傾げつつ自分の掌を見詰めてみた。確かにいつものようにグローブが壊れていないのだが、まだまだ出力過剰である。
「あ、あのなんかごめんなさい……盾っぽくするつもりだったんですけど……」
腕を失くしたロボットは、まるで呆然としているかのようだ。しかし。
「――異常検出。敵性判断上昇。上・昇。アクティブレベル・プロテクト・リリース」
「え……あれ、なんかおかし――」
言葉が掻き消される。数秒遅れて響く轟音。リサの歌声を引き裂く暴威。地を割る拳は手心無く護へと撃ち付けられた。