「トップチームの実力!」09
ボツリ――と低い音が響いた。まるで何かのスイッチが入ったかのような、そのような音だ。どこかで聞き覚えのあるような――
「あ、校内放送……? いつの間に……」
気付いた聖羅は隣で楽しそうに頭を揺らすリサに視線を送る。
「せっかくのステージだし、ネ? 楽しい方が良いでしょ? Enemyとバトルする時はいっつもこうしてるのよ」
校庭全体に響いて来たのはとある楽曲だ。ポップな曲調に、嫌味のない高めの声。アイドルのような可憐な見た目でありながらも堅実で、誠実な歌声。
ファンの間では聖歌、などとも呼ばれる彼女の歌。まるで不思議な力が込められているかのような。
芸能に疎い護ですら耳にした事のある曲で、ここ最近では毎日のようにテレビ等で流されている。しかしあくまでも義妹が口ずさんでいるのを聞いたレベルで知っているというだけであった。だが、不思議と嫌いではなかった。
「もちろん、宣伝の意味もあるわねー。新曲、『POWER OF VOICE』! 買ってね! こーひょー発売ちゅー!」
「この中でそれ、意味あります……?」
「まあ、ほら研究員連中にも聞かせてるんじゃないだろうか? あいつら外出ないし」
少々離れた場所に生徒会室から持って来たパイプ椅子を並べて観戦する三人。緊張感があるような、無いような独特の雰囲気だった。
しかし護は、と言えば。常日頃持ち歩くようになった戦闘用の特殊スーツを身に纏い、いつ動くともしれない機械人形を凝視。先日対峙した時よりも作りが雑なように思えるそれ。
長めのイントロから、Aメロに入った。
ふと、目が合う。この表現が正しいかどうかは定かではないが、恐らくは。
――起動。
「っ……!?」
直感だ。機械人形の瞳と思しき箇所に湛えられた赤い光。汚れるのも厭わず地面を転がる――。
「コマンド・スタート。モーション・スタート。アクティブレベル・5」
モーター音のような、何かが回転するような音が耳に届くと同時か、それより早く機械人形の腕が地面へと叩き付けられる。そこには容赦など感じさない、冷徹で正確無比、まさしく機械的な一撃。
巻き上げられる砂塵の中、護はグローブを強く握る。指先に走る小さな刺激は能力発動の兆し。
「スキャニング――腕部展開」
叩き付けた腕の側面が開く。中に見えるのは色とりどりのケーブルと、巨大なモーターだ。エンジン音を轟かせるとモーターが回転し舞い上がる砂埃を勢い良く吹き飛ばしてしまうではないか。露わになる護の姿。
「なんかもうロボットですね……」
普段よりもしっかりと背筋を伸ばし、吹き飛ばされそうになる強風の中でも毅然とした立ち姿だ。忙しなく靡く前髪から覗く瞳は――真紅。燃え盛るような、それでいて鮮やかな。
まだ心には恐怖がある。だが、一度スイッチが入れば、能力者としての片鱗を出せば頭は急激にクールダウン。周囲を見る余裕すら生まれてしまう。解るのだ。戦い方が。この力の使い方が。
「“紅蓮”――」
見据えるは機械の人形。
「行きます!!」