「トップチームの実力!」06
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彼女が口を開けば聴衆はたちまち魅了される。それが小さな赤子の鳴き声だったとしても。不思議な声でありながら誰も疑問には思わなかった。思う必要が無かったのだ。
かの声耳にした者たちは口々に言う。
「ああ、どうしてこんなに美しいのだろう? まるで天使のようだ――」
まるで自身の子へ語り掛けるように優しく、温かい声色で。
誰もが羨むその美声は成長しても変わる事が無かった。歌えば喜ばせる事が出来る、演じれば泣かせる事も。
故に、人々は言う。
たとえ覚えていないとしても。
心の中ではこう思っている事だろう。
「どうして。どうして――」
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「と、いう事で! ハイ! 日本のファンの皆さーん! こんにちはー!」
リサ・ベネットは歌手だ。歌声もさる事ながら彼女の持つルックスも世界中にファンを広げている要因でもある。そして何よりも人当たりが良い。
どの国に赴くにしてもその土地の言葉を出来る限り学習し――自己紹介のみなどというすぐに忘れてしまうような焼き付け刃ではなく実用レベルまで、だ――、写真もサインも、マスコミだって蔑ろにしないのだ。
「え、なにこれどう対応すればいいの? ど、どうしよう助けて大和。これサイン貰っても良いのかしら……?」
「落ち着け。今は歌手として来てないはずだ。なら立場は同じ……くらいだろ多分」
「先輩、あの、ずっと【あ】が連打されてます。手を離したほうが……」
完全に動揺を隠しきれていない先輩二名と、まだ良く理解していない護。凄い人、というのは何となく伝わっているが、具体的には未だに謎のままである。
対してリサは用意されたパイプ椅子に腰掛けてにこにこ顔。話し掛けるタイミングを窺っているのか待っているのか。
「あのー……貴女はどうしてここに来たんでしょうか……?」
こうなってしまっては仕方がない。護がかなり頑張って声を絞り出した。
「ノー!」
「えっ」
胸の前で腕をクロスさせて首を振るリサ。護の質問に間違いがあったのだろうか。当然出鼻を挫かれた護はたじろいでしまう。
しかしその後はすぐに笑顔を取り戻しこう告げた。
「リサって呼んで! 日本の人って、なんて言うか……shyじゃない? もっと気楽にっ」
「すみません……」
「次から気をつけてね! んー、と。どうしてここにって? これはとーっても簡単、です!」
「そう、なんですか……?」
いまいち彼女の言いたい事は先が読めない。表情は確かに笑顔で柔らかいし、口調も明るく明快。良い意味で分からない。
ほんの少しだけ落ち着いてきたらしい聖羅たちも彼女の言葉を逃すまいと、スマホのカメラを起動し全身を向ける。
髪先をくるくると弄りながら、まるで恥らうかのように――
「You're the one I've always wished for.――君が欲しいのよ、私――」