「トップチームの実力!」01
護には非常に濃い数週間であった。人生の中で一番、とは決して言えないが、それでも相当な順位に位置するだろう。
しかし、ここで護が驚いているのは、まだ四月であるという事実だ。体感ではもう一ヶ月以上は経過していそうな気がするのだが。そのお陰かどうか全身には常に倦怠感が付きまとっている。
「今日は何の集まりなんでしょうか?」
すっかり定位置となってしまった生徒会室の椅子。遠からず近からずという絶妙な位置を確保した護は途中まで終わらせた課題を閉じ、主催者へと質問を投げる。最近では自分から進んで言葉を出せるようになっていた。これもまた進歩である。あくまでもこの空間だけなのだが。
「あら、言ってなかったかしらね……?」
「少なくとも俺は言ってないな」
「こういうのは大和の担当でしょ」
「そうは言うがな。リーダーの仕事でもあると思うのだ」
生徒会長、と書かれたネームプレート。ホワイトボードの前。これが聖羅の席。そして窓側にひっそりと置かれているのが大和の居場所。追いやられた訳ではなく、自分でこの場所にしたのだとか。
「まあ良いわ。ざっくり言うと成績発表ね」
「成績、ですか……?」
何もテストを行った記憶は無いのだが、と護は首を傾げる。もしや自分の知らないところで何か評価をされていたのか。だとするとやはり能力関係の評価か。自分でも分かる。およそ、よろしくない。
「このチーム全体のね。いくら蝕を倒したのか~とかどれだけ『研究所』に貢献したのか~とか。なんかいっぱいあったわ。覚えてないけど」
「無駄に沢山あるんだ。だからこれは別に覚えなくても大丈夫だな。それよりも重要なのがこの評価によって変わってくる物だ」
どうやら自分の能力自体を評価される訳ではないらしいのだが、その沢山あるという項目の中でも恐らくは足を引っ張っているのでは、と考えてしまうのが護だ。この性格だけは直しようが無い。
「そう! お金よ!」
机を叩き、勢い良く立ち上がる聖羅。長い髪が顔に掛かったのか、鬱陶しそうにそれを退ける仕草。
「お金」
「基本的に私たちのお給料……もとい活動資金はこの評価によって変わるの。良ければ多いし、悪ければ少ない。実力主義、ってやつかしら」
「給料と言えば聞こえは良いが別に自分達が自由に使えるって訳でもないのがミソだ。あくまでも『研究所』に貯金してある分を請求して使う。保管されているだけだからたまに引かれる。勝手に」
「はあ」
「反応が薄いわね……言い方を変えれば紅野くんの初任給よ? 何か買おうとか食べようとか、こう……あるでしょ?」
給料日だ、というのは理解したつもりである。しかしどうも実感が湧かない、とでも言えば良いのだろうか。あまり興味が無い。
「うーん……」
これと言って今欲しいモノは無いのが本音である。そもそも無欲なのだ。思い返してみれば幼少から欲しい物、というのは考えた事が無かったかもしれない。
「……とりあえず、発表しようか」
どうにかして欲しい物を引き出そうとしている聖羅を見ながら大和はいつもの如くパソコンを弄る。上がる事は無くてもせめて変わっていて欲しくはないな、と。