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Promise―桜色の約束―  作者: 吹雪龍
第4話
139/160

「CODE:紅蓮」39

*****



 能力者の仕事は基本的には夜である。それもそのはず、この『TEAM:S』――聖羅のS・“招雷”のSから取ったと聖羅は言うのだが、大和曰く功績順に割り振られたのだと言う。全国、全世界で見てのこの割り振りならばかなり上位だと思うのだが聖羅は不満げであった――は構成人数三名中三名が学生。よって昼間に蝕が発生した場合でも駆け付けられないのだ。

その場合は『研究所』の人間であったり他の対策チームが出動する、との事。故に学校に居る間は普段通り学生を、夜になって【仕事】が入れば出動。夜中に叩き起こされる事もしばしば。


[紅野君。そこの曲がり角を右に……会長は……すまないが少し速度を落としてくれないか? 機器が追い着かないんだが……]


 耳元から響くのは大和の声だ。黒い本体に白いラインが淡く光る通信機器。今日のように隔離範囲が広く、入り組んだ住宅街ではこのような態勢を取る事になった。

大和という司令塔に実働部隊の聖羅と護。護に至ってはまだまだであるがこの組み合わせが一番効率が良いのである。


[どうにかならないの、それ?]


[無茶を言ってくれるよ……これでも能力耐性は最大まで引き上げたんだ。現状はな]


[という事は私が成長してるって言う事よね? なんでそこで黙るの?]


[っと紅野君の方に誘導出来たみたいだ。頼むぞ]


[ねえ大和? どうして無視するのかしら?]


 時折聞こえてくるのはこうしたほんの少し気の抜けたやり取り。だからこそこの張り詰めた空気の中でもやっていけている。当然の事ながらまだ怖い。得体の知れない相手と対面して、戦って。毎日のように泥だらけになりながら、それでも護は逃げようとはしなかった。


「了解です! っ……」


 機器を取り付けていない左耳に感じたのは足音だ。歩幅が小さいのか複数居るのか定かではないが、やたらと多い足音。アスファルトを駆けるその音はまるで蹄の如く。迫っている、確実に。

不気味なまでの静寂に包まれた十字路。カーブミラーに映るのは自分の姿だけ。味気の無いダークグレーの服だ。しかしこれも『研究所』から支給された特殊な破れにくいスーツ。ある意味制服でもあるらしい。学校の制服のような見た目をしてるが、動き辛いという事も無く至って快適。

 ――来る。最近では感覚が研ぎ澄まされてきたのか、それとも慣れてきたのか何となく、蝕の気配のようのようなものを感じ取れるようになっていた。しかし聖羅に話をすると首を傾げられたのでこれは能力付随のモノなのかもしれない。


「馬……?」


 前方、異様な速度で坂を降りて来る蝕。音からすれば馬であるし、確かに馬のような見た目でもある。ただやたらと毛が長く毛むくじゃらで、何やら泥のような液体を振り撒いているではないか。目は赤く、開いた口からは尖った牙。護の知識には存在しない生物だ。

その馬のような蝕は護に向かって一直線。止まる気配などない。このままではあの猛突進を受けてしまう。そうなる前に――


「よし……」


 両手には黒いグローブ。これは大和が作ったのだとか。護の能力の発動を補助する画期的な物なのだ。ほんの少し、強く手を握り拳を作る。これだけは慣れないが指先に小さな痛みが走る。――準備完了。


「オオオオォオォッォオォンン!!」


 護を視界に捉えたのか奇妙な雄叫びを挙げる馬。


「止まって貰うよ……!」


 両掌を向ける。小さな光源は瞬く間に大きくなって護の手から溢れ出す。馬との距離は数メートル。それよりも護の能力の方が速かった。溢れた濁流は周囲の家々を飲み込み、燃やし尽くす。木々や草花は触れる前に灰へ。その他の建造物も見るも無残に炎の中へ。


「……」


 力の使い方を覚えろ、と言われた。故に毎回調整しているのだがどうもまだまだ抑えなくてはならないらしい。勉強不足である。


[蝕の反応消失。うん。終了だな。今回は二百メートルで済んだぞ紅野君]


「えっと毎回すみません……あと、その今回もグローブ……」


[ああそれも追加で作ってあるよ]


 修復は可能なのだから気にするなとの事なのだが気が引けてしまう。そしてすっかり跡形も無くなってしまったグローブ。申し訳程度にぶらついているのは細い糸、ワイヤーだろうか。


「今日もお手柄ね紅野くん」


 颯爽と現われたのはいつものように電線を移動のレールに使用していた聖羅である。拍手しながら近付く彼女に護は相変わらず低いテンションで。


「あ、会長……」


「そう気落ちしなくても……成果は成果なんだからね。十分よ!」


 そう言って屈託無く笑う聖羅。護にはなんだか最近彼女の機嫌が良いように感じていた。何故だかは解らないが。特に護には優しい。仲間になった事でそこそこ信用して貰えたのだろう、と護は思う。


「だからお疲れ様。もうあと何時間もしないで夜明けだけど、ゆっくり休んでねっ」


[修復もあの件以降は『研究所』が受け持ってくれている。帰ろう]


 そうだ、と。自分が恐怖から逃げない理由がもう一つあった。

この瞬間だ。この瞬間が、好きなのだ。恐怖を皆で克服し、何事も無く笑っていられる時間が。

だから、願わくば。――護りたい。自分の力が足りなくても、護れるように。


「……はい!」


 その為にこの称号を名乗ろう。『CODE:紅蓮』と。


「大和の場所って、ここから遠いわよね」


「そう、でしたね……」


「先に帰るわ」


[なんだと……!]


「あ、あはは……」




Promise

第3話『CODE:紅蓮』終

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