「CODE:紅蓮」33
危険を察知する、とは言うが自分はどうも鈍臭いのでそういった予兆を察する事は非常に難しい。しかし、今回は違った。真っ先に理解した。矛先は自分に向けられている、と。
聖羅は思う。直線上、能力の最大出力を放って来るだろう。規模こそ定かにはならないが、避ける又は往なす事は可能なはず。その中に物理的な攻撃を交えてくるのならば警戒はしなければならない。
渦を巻く風。自分を中心にした、逆巻く風の塊を思い描く。放出系能力ではあるが、その風を放出する為にはある程度周囲から集めてこなくてはならないのだ。自身の体内から風を生み出す、という訳ではない。恐らくほとんどの能力者が似たような原理で行使しているはず。
大気やら地面やら建物やら、地球上に存在する何かしらのエネルギーの一部を取り込んで異常なまでに膨張させ、制御する。それが能力者の本質である、とされていた。
故に感覚として解るのだ。空気の震え、流れ、音。目に見えない情報が肌に触れるだけで頭の中に流れ込んでくる。どのように制御すれば良いのかも、これもまた感覚だ。
(一撃だ。何かしら邪魔はして来るだろうな……曲げて、当てる。それだけだ)
仮面が邪魔だ、とは思った。しかしこのように視線を隠せるというのはメリットである。気付かれたのか、それともただ単に移動しようとしているだけなのか。標的の影が動いた。止められては厄介である。勝負を決する時だ。
「こいつで……!! 吹き飛べ!」
掌から放たれるのは地面を抉る黒々とした逆巻きの暴風。自身もその威力に耐え切れず後方へと弾き飛ばされる程。それだけの威力を、必殺とでも呼んで良い力を込めた。そして、簡単には止められないだけの威力と予想をさせない動きを。
「この角度なら、こうして――」
狙い通り一直線に来た。男というのはどうしてこうも単純なのか、と思ってしまう。大きな勝負に出るのなら大技で、しかも力技。力こそ正義、とでも言うのだろうか。だがそれを受けてしまうのは得策ではない。何せこれを止めたとしてもまだ能力者が残っている。それを倒して、漸く勝ちだ。
砂塵を巻き上げ、立っている事すらままならないような暴風の中、紫電を束ねる。回転方向は聖羅から見て反時計回り。ならば打ち消す方向に編むのだ。既に眼前まで迫っている。肌を引き裂く小石か何か。そんな物は気にしていられない。
「――消してあげるわ!」
風を打ち消す強烈な閃光。イメージをそのまま虚空に描き出す。力を力で打ち消すのではなく、技量で。それが聖羅の信条でもあった。しかし。
「!?」
描き出した稲妻は謂わば盾でもあった。だが、その盾が機能する事は無く。逸れたのだ。まるでこれを予測していたかのように。跳ね上がるようにして、聖羅の頭上を飛び越えて。失敗したのか、それとも何か狙いが――
巻き起こる風の余波に目を瞬かせながら行方を追う。その次の瞬間には足が動いていた。間に合え、間に合えと。
「そんなっ……紅野くん……っ!」