「CODE:紅蓮」32
命からがら、という状態だ。ただ階段を降りてきただけだというのに。降りて来て、筒抜けになっている玄関と思しき場所から顔を覗かせる。轟く爆音に地を揺らす衝撃。
そこらにある資材すら武器のように扱い、衝突する度に弾け飛ぶ閃光と粉塵。到底、近付いて良い物ではない。ここで大人しく見学している事すら邪魔なのかもしれないが。自分に何が出来るのか、己に問う。
(このままじゃジリ貧だ……どうする……?)
仮面の下、ワルツは思う。消費されていく体力と精神力。今までこんなにも長時間連続して、しかもほぼ最高出力での使用は行った事が無い。身元を隠す為にと用意されたローブも、このピエロのようなふざけた仮面も、今となっては鬱陶しい程だ。
渡された際、これがあれば追跡も受けないし、身に着けるだけで能力も増強するなどと言われたが戦闘行為をする上では必要の無い物なのかもしれない。外してしまいたい、しまいたいのだが。
(これを外すって事は……負けって事だもんな!)
自ら外すのは、自分の生活をしている時。この姿で相対したら、外されるでもしない限りこの姿で有り続ける。それが自分達の暗黙の了解だ。
「だから……負けろ! “招雷”の!」
渾身の蹴り。こうなってしまった以上は相手が女子供でも容赦、手加減など必要無い。ただ勝つ為だけに攻撃する。
「――そう簡単に、負けられるはずないでしょ!」
首筋を狙って飛んで来た足。一挙手一投足に恐ろしいまでも力が宿っている。しかし聖羅には分かっていた。次第に疲れが見え始め、威力が落ちてきている事が。それは勿論ワルツに限った話ではない。当然の事ながら自分もだ。
強がりをしながら、足を受け止めた。同時に雷撃をワルツの体に這わせ纏わり付かせる。外される前に、行動するのだ。まさしくハンマー投げの要領で、うっすら痛みのある足を軸にしながら投げ飛ばす。否、地面に叩き付けた。
巻き起こる土煙。
「っあぁ!! ぐっ……!」
能力の使用が間に合わず諸に背中を打ち付けてしまった。全身に広がったのは痛みよりも圧迫感だ。全身から酸素を奪われてしまったかのような錯覚。立ち上がらなければ追撃が来る。急ぐのだ、とちかちかする脳で考え、本能的に立つ。視界が揺らいでいる。
「嘘、今ので立てるの……?」
聖羅もこのタフさには驚きを隠せないようだ。それだけ力を込めての攻撃を行った。本来であれば死すら見えてしまう程だ。それを、耐えた。
「ッたり前だ……ここで負けたらどうなるか……」
頭を抑え、仮面の中の瞳に強い意思を宿しながら。
「チッ……やりたくは無かったけど……後始末は他に任せて……」
手を伸ばした。真っ直ぐ。大技でも使うつもりか、嵐の前の静けさのように音が消える。