「CODE:紅蓮」29
衝突するのは肉体では無い。触れそうで触れない距離の見えない力。全てを吹き飛ばす暴風とそれを受け引き裂いてしまおうとする雷電。この前に見たような生易しいものではなかった。荒れ狂う破壊の余波は全身を叩き、呼吸すら奪ってしまうような圧力を周囲に撒き散らす。塵芥などは更に細かく破砕され、申し訳程度に残っていた外壁は何処かへ飛ばされる。手摺りに掴まっても生きた心地などしない。今にもこの向こうへと弾き出されてしまいそうだ。何かしよう、手伝おう、などという考えは起こらず、護はただ逃げるのみ。自分が居ては邪魔になってしまうのだからと。しかし体もなかなか動いてはくれなかった。ただの一回、吹き飛ばされて、それだけでもう虫の息に近いのだ。
「この……!」
拮抗する力。このままではジリ貧だ。能力だけで押し切る事は十分に可能だが、その選択をした場合。なかなか悲惨な状況が出来上がってしまうというのを聖羅は理解している。自身の能力である“招雷”は放出系。『研究所』に所属している能力者の中でもなかなかに強力な能力。今でこそ出力を相当抑えているが、少しでも加減を間違うと――
(大和が居れば良かったんだけど……考えるよりも、この状況だけはどうにかしなきゃ――)
相手の表情は見て取れない。戦闘に於ける表情の変化というものは重要な情報となる。それを隠すという事は理に適った方法で、厄介だ。しかしこの能力をぶつけ合う状態を保つのがどれだけ負担になるか、くらいは分かっているつもりである。
「さっさと、負けろよ!」
上から降りかかる言葉。恐らく彼も相当辛いはずだ。だからこそ、早々に終わらせようと先程よりも出力を上げている。それに呼応させるように聖羅も紫電を伸ばし続ける。
「あなたが負ければ良いでしょ!目的くらい聞かせなさいよ!」
「んな事出来るかって――」
ふ、と。気を抜いた。抜けてしまった。理由は特に無く、疲れが出てしまったようだ。幸いな事に、お互いに。
「あっ……!?」
「やっべ……!」
炸裂する閃光。破裂するエネルギー。行き場を失った紫電の盾は複数の雷光となり、暴風は相変わらずだが、どちらにしても暴虐の限りを尽くす。穿ち、裂き、砕く。有り余る能力の凄まじさに護は戦慄しながらも必死に身を隠そうともがく。ほんの少し動けば建物内部だ。今はとにかくこの中に――、と動こうとした時だ。嫌な音だった。腰の辺りだろうか。当たった。何かが。固くて、痛い。
それに押し出されるように強制的に屋内に戻れたが、立ち上がる事が出来ない。頭が追い着かないのだ。痛みも衝撃も何もかも。しかし、聖羅がどうなったかだけでも確認をしなければ。
「あ、れ……?」
恐らく能力が暴発した直後も戦闘は繰り広げられた“はず”だ。しかし、何故だろうか。この状態は――?