「CODE:紅蓮」26
扉からは未だに連続した打撃音が聞こえてくる。一向に能力を使おうとはしていないようだ。それ程までに警戒されている。自分の中に宿る“力”とは。聖羅が言うには数ある属性の中でも人口が最も多い炎系統の能力なのだとか。対象物を燃やす、火を灯す、伸縮させる。規模も用途も様々で護がどの種類に属しているか、までは判別出来ないのだとか。得体の知れない物が胸の内に潜んでいるというのはあまり良い気分ではないが、それでも、恐らくこの状況を打破出来るのはその能力。
揺れる即席バリケード。壊れるのも時間の問題だ。ベンチの脚を強く押さえると先程よりも衝撃が強く伝わってくる。恐怖に思考は停止。今はもう押さえる事で精一杯だ。
「く……!」
只でさえ腕力には自信の無い護。バリケードの組み立てだけでも相当の体力を使ってしまっている。それに加えて階段を駆け上がった分。本当はずっと座り込んででも回復に充てたい程だ。それが出来ない以上、限界までこうしているしかない。
――扉の内。正直に言えば能力に警戒しているのだ。彼の能力は能力者の目からしてみてもかなり強力。敵ではあるが『研究所』の作り上げた特殊空間はかなり強固だと言える。自分達は容易に侵入する手段を持ち合わせてはいるが内側から破壊してみろ、と言われても破壊出来る能力者がどれだけ居るか。それ程までに外界と乖離している物に干渉するなど尋常でない力に違いない。だからこそ、こうして扉を足蹴にしているのだが。
「いい加減疲れてきたな……」
能力者と言えども中身は人間。体力には限界がある。当然常人よりかは高いのだが。ピリピリとした痛痒さを覚え始めた足を気にして一旦休憩。しかしなかなかに堅い扉だ。鉄製なのは分かるがどうしてこうも反応しない。もういっそ能力で吹き飛ばしてしまった方が早いのではないか。確かに相手の能力は怖いがやられる前に、だ。
「っし」
扉から半歩離れ集中。巻き上がるコンクリートの破片や木片。やるならひと思いにやってしまおう。それが良い。自分の能力はそれに長けているのだから。
――音が止んだ。諦めた、は無いだろう。次にやってくる事は。想像は出来る。ここまでか。
「……」
もしかしたら押さえ込めるかもしれない。無謀なのは分かっている。だがやってみなくては。突如として能力が開花するかもしれないと極度に淡い希望も乗せて。目を瞑る。ベンチの脚を握り込む。ささくれが指を刺しているようで、チクチクした痛み。それでも握力の限りで、全身でバリケードを押さえる。自身の心臓の音だけが聞こえてくるような錯覚。感覚が研ぎ澄まされているのか、肌に感じる風さえも痛い。
来る――!
理由は無くも、感じた。今、この瞬間だ、と。
静寂を破ったのは強烈な破砕音だ。扉を無理矢理開き、護の掻き集めたバリケードを瞬く間に破壊し、押し飛ばし。
舞う粉塵。破片。
浮遊感と、目が回るような感覚と、それから遅れて背中に衝撃。体内の空気を叩き出されてしまったかのような窒息感。チカチカとする目をゆっくりと開く。粉塵の薄茶色に染まった視界。影が、見えた。人の。
「げほ……なんだこれ埃だらけじゃん……」
渦を巻くように吸収された塵。それをゴミを丸めるように圧縮すると、これまたゴミを捨てるように屋上外へと放り投げた。
「さてと。もう良いか?準備ってのは」




