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Promise―桜色の約束―  作者: 吹雪龍
第4話
125/160

「CODE:紅蓮」25

 逃げた。息を殺して。全力で。もう体力は限界だ。こんなに階段を駆け上がったのは初めてかもしれない。それ程までに一目散に逃げていた。そのせいか気付けばここは屋上ではないか。周りに建物はほとんど無く、倉庫のような建物がぽつぽつと見える程度。


「はぁっ……はぁっ……!」


 頼りない扉を閉め、今にも壊れそうな錆付いた手摺りに背中を預けてへたり込む。これ以上動くと胃の中の物を吐き出してしまいそうである。全身で息をしながら空を見上げ、思い出したようにポケットから携帯を取り出す。連絡する先は勿論、決まっている。


「……そんな……」


 表示されるはずの電波強度。アンテナで示されるそれ。非情にも護の目に映っているのはアンテナではなく、文字だった。それも二文字。


「圏外……」


 ここに来るまでは確実に電波は入っていた。地図を頼りにしてここまで来たのだから。ならば何故――否、考える必要は無かった。何かしらの対策をされていたのだ。初めから。そう、恐らくはあの手法。世界と世界を隔離するという。あの時、電車でも行われた方法だ。一見変わったところはないのだが、ここは既に外界と隔てられた別空間。そして、体が落ち着いてきたところでもう一つ気付いた。


「どうしよ逃げられないよ……」


 ざらざらとした手摺りに捕まりながら立ち上がり、辺りを見渡す。上ってきた分の高さを感じさせるこの状況。屋上だ。どうやったって逃げ場が無い。ここで悔やまれるのは自分に能力者としての権能が使えない事。もし使えたのならば打開策もあったのかもしれないが、今の自分にはどうしようもない。ただ待つしかないのか。頭を働かせる。走って転んで、疲れ切った脳の歯車を徐々に。


「……」


 この屋上にある物。手摺りと申し訳程度に設置された壊れ掛けのベンチ。それから土嚢袋か。その他はゴミ。良くあるバリケードのためにベンチやらを置くのはどうだろうか。相手がゾンビならばまだ少しは耐えられたかもしれない――映画だと――。しかし敵は能力者。風を放出する能力。一瞬で木っ端微塵になる姿しか見えない。使えるはずが無い。無い、が。


「もし、もしだけど……警戒して自分の体でどうにかしたら……?」


 あくまでも仮説でこうあってほしいという希望。もしあの男がバリケードを能力で破壊する事なく侵入を試みたら?時間稼ぎにしかならないが、やってみる価値はある。そうと来れば行動あるのみ。固定されていないベンチは想像以上に軽く片手で引っ張れてしまうほど。それを五つ集め、崩れないように積み上げる。次に薄汚れた土嚢袋。中身にはまだ金属の端材やら土、コンクリートと思しき廃材が入っており、ベンチよりも信頼性があった。それも同じように数個バリケードを固めるように。護にしてはかなりの手際だ。危機が迫り神経が研ぎ澄まされているのか。

 それなりにじっくりと時間を掛けてバリケードを製作。空はすっかり暗くなっているではないか。助けは見込めない。バリケードが破壊された後、どうするか。そこまではまだ、分からない。


「……!」


 ドアノブが、動いた。開かれたらドアの死角になるように身を潜める護。


「チッ……面倒な事やってくれたな……わざわざ全部の階回ったのに結局ここだなんてさ……」


 聞こえてくるのはあの能力者の愚痴。口ぶりから察するに、彼は相当慎重な性格のようだ。ならば、護の読み通りこのバリケードもなかなか壊されないだろう。ならばまだ考える時間はある。どうする、どうする――

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