「CODE:紅蓮」24
たった数メートルだ。ほんの少し走ってしまえば悠々と到達出来るはずの距離。そのはずだった。
「まあそうだな。俺の能力的には視界から外れればっていうのは最善だろうよ。でもさ」
足元が爆ぜる。土くれが飛び散り、行く手を阻む。それでも何とか、何度も何度も転びながらも、傷は無い状態で柱の影へ。たいした距離でもないのに異常なまでに息が上がる。緊張と恐怖。それがいつも以上に護に負担を掛けているのだ。
「隠れたって、そいつをぶっ壊せば――」
声は反響して耳に届いている。恐らく、だ。言葉の切れ間に能力の発動の瞬間がある、かもしれない。幸い人の話を聞くのは得意だ。次の逃げ場。目に付くのは――
(階段……!行くしか……)
天井もある程度は仕上がっている。先に上って連絡を取ってしまえば、上手く息を潜めてしまえば。多少の時間稼ぎにはなるはずだ。
「――隠れてる意味も無いよなあ!」
破裂音一つ。
チャンスは今――我ながら驚きの反応速度で、転がるように前へ。背中を預けたコンクリートの角柱が軋む音が耳に入る。まだ倒れようとはしていなようだが、次に攻撃があれば倒れるだろう。それよりも早く。もつれる足を必死に動かす。見た目など気にも出来ない。ただ柱を影にしながら、一直線に階段へ。
二つ目。柱の崩壊。天井を支えていた一部と思しき柱はグレーの噴煙を吐きながら崩れ去る。天井の一部も一緒に連れてだ。真っ白になった空間。当然これを払うのは容易だ。
「……」
しかし、男は警戒していた。もしこれを計算していたとするのなら、一体どこから攻撃を仕掛けてくるのかと。煙に紛れて炎を伸ばしてくるかもしれない。ある意味疑心暗鬼だった。戦闘経験の無い護にそのような事が出来るはずもない、というのは承知しているが、それでも不安だ。戦闘というものは何が起こってもおかしくないのだから。棒立ちになり、周囲に神経を張り巡らせるように微かな風を。安全確認だ。
「逃げたか……」
その風では護の反応を掴む事は出来なかったらしく、諦めたように粉塵を吹き飛ばす。自身の顔を覆いながら。これだけの粉塵を浴びるつもりはないようだ。それでも若干灰色掛かったローブを払いながら辺りを見渡す。護の痕跡は無い。一番近いのは出入り口。確かにここに逃げた方が正解ではあるのだが。
「こっちじゃねえな」
当然対策はしてあった。もしあちら逃げたのであれば護は立ち往生しているのだから。しかし、その様子はここからでは見て取れない。ならば、柱の影かと勘繰るも、まともに人を隠せそうな柱は意外と少ない。痩せ細っていたり、工事途中だったり。ならば残されるのはただ一つだ。
「上、か……自分で逃げ場失くすかねえ……」
一つだけなのだが、それでも気になってしまうらしい。意外と細かい性格なのだろうか。だが他には思い付かない。ならば、向かうしかあるまい。