「CODE:紅蓮」23
「あなた方と、一緒に行く訳にはいきません。僕は、僕の両親が奪われてしまった真相を追わなきゃいけないんです。だから――」
一陣の烈風と破裂音。護の後方からだった。何事かと振り返ると、忘れ去られたらしい放置されたままの足場材が舞い上がり、再び地面に戻ってきたところだ。尋常でない力が加えられたのだと一目で分かる。それを引き起こしたのは誰なのか。
「ああ、ああ……そうか。なら俺にも俺のやり方ってのがある。本当は断られたら退けって協力者には言われてるんだがな。こっちにも意地ってのがあってな?……力尽くでも引き込んでやる。お前だって能力者なんだろ?使えよ、その炎を」
男の周りに舞う砂埃。これは聖羅から聞いたタイプの能力の一つ。
「風系で、操作か、放出……!」
属性系統と能力傾向。それが分かったところで何が出来る訳でも無いが、対処方法は聞いている。震える足を動かそうとするも、その前に考えなくてはならない事があった。
(……逃げる、場所……相手の見えない場所に……!)
操作や放出などといった能力には対象が見えている事、射程距離がある事が条件である場合が大多数なのだとか。だからこそ護は遠めで且つ隠れられる場所を必死に探す。その間にも風が吹き荒んで全身を叩くが、背を向けてしまおうだとか、屈服してしまおうだとかは思わなかった。護の算段としてはこうだ。まずはどうにか視界から消えて、息を潜め、聖羅や大和に連絡を取る。あとから怒られるかもしれないが、自分だけでどうにか出来る問題であるはずもない。ならば大人しく助けを求めなくてどうするのだ。
「さあどうした。男なら勝負しようじゃねえか」
次第に男の口調も、そして取り巻く風も荒々しくなってくる。柱や地面を削っていたものがついには護の足元まで迫っているではないか。危害を与えないのはまだ能力を使っていないからか。
しかし、この状況はチャンスになるはずだ、と怯えて固まりそうな頭を回転させる。この調子で後退りしていき、果ては隠れられる辺りまで来れれば。
「……僕の能力には使用するのに条件が多いんです」
はったりだ。こんな虚勢を張るなどやった事もない。声は震えているだろうし、すぐに見破られるかもしれないがそれでもきっかけは作らなくては。走ったところで自分の足など信じるに足らないし、能力を自在に出せるのならまた別かもしれないがそれも出来ない。
「へえ」
聞く素振りは見せるが風は止まない。警戒しているのだろう。
「それで、時間が掛かると?」
「そうです」
左足の脛に鈍痛。
「――!」
突如として襲われた痛みと衝撃に、気付けば転がされているではないか。制服の裾は破け白い肌が露出している。じわじわと赤みが登っているのが目に見え、更に痛みが相乗されているようだ。目尻に涙を湛えつつも声は出さず。
「待ってやる、とは言わないぜ。ただ、その能力が使えるようになるまで、精々逃げ回ってくれよ」
来る――直感だ。次も体のどこかに当ててくるはず。痛みに抗いながらもう一度転がると数秒前に護が居た場所には拳大の穴が完成。
これはもう、戦闘だ。能力者同士の。
息を呑む。せめてあの柱まで辿り着く――




