「CODE:紅蓮」22
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来てしまった。到着してしまった。そこまで思うのならば行かなければ良いだろう、と言う人も居るのかもしれないが護にはそのような事は不可能だった。それもそのはず。
「……」
郊外にある寂れた、高層ビル建設予定地“だった”場所。本来であれば今頃には大型商業施設として賑わっていたのだろうが、現実には中途半端に残された赤錆色の鉄骨と更地だけが残っているのみ。あれはほんの数年前の出来事だ。原因不明の火災によって数名が負傷、錯綜した情報では死者も出ていたとか。元々周辺住民には受け入れられていなかったうえに、引き寄せられるように不良グループが住み着いてしまった事もあり計画は頓挫。その責任を追究され、知事も辞職に追い詰められる大事になった場所だ。
そんなある意味曰く付きの物件に嘘を吐いてまで来たのには理由がある。
「ちゃんと一人で来たみたいだな」
壊れたバリケードを掻い潜り、なんとなくの感覚で進んでいくとおよそ入り口から十メートルも進まない辺り、鉄骨の影に隠れるように凭れ掛かる人物。彼が護をこのような場所に呼び出した張本人。
「ええ……あそこまで書いていれば僕だってそうしますよ……」
「まあ気を悪くするなよ。俺自身はどうこうするつもりはなかったし、そもそもメアドすら知らん」
「じゃあ一体誰がこんな……」
フードに仮面。相変わらず素性を明かすつもりの無い気配。珍しく怒りすら感じてしまうようで携帯を握り締めているではないか。その画面に表示されているのは問題のメール。この場所を示す画像と、短文。『一人で来なければ周囲の人間を襲う』、という物騒なもの。
「言ってみれば協力者ってやつでな。俺のとこにもいきなり連絡があって今の行動を取ってる。顔も見た事無いけど、使える奴だってのはわかった。この前のも含めてな」
「この前……電車のも……?」
「そういう事だ。こうすれば来るってな。俺はただ待ってただけ。結構暇だった」
懐から煙草を取り出して流れる動作で仮面の下の口元に運んで火を点ける。その状態でも吸おうというのだからなかなかの根性である。当然その場合口元を晒した状態なのだが、そこまで気にはしていないらしい。
「それで、どうだ?答えは決まったよな?」
答え。さも当然かのように。彼はそう聞いた。まるで選択肢など存在しなかったかのように。仲間になるかどうかを。
「……もし僕が、僕が仲間になったらあなた方にはメリットがあるんですか……?」
質問に質問で。正直に言うと実はこのような大事な事をすっかり失念していたのだ。勉強に能力の特訓と実に忙しい一週間を過ごしていたお陰である。だからこその時間稼ぎ。正解を導く為の過程だ。
「俺にそれを聞くか……困ったな。だけど、ある。『機関』を潰してしまえば誰も争わないし、血も見なくて良い。蝕はどうなるか知らねえけど」
恐らく彼も護が仲間になった先までは考えていなかったのだろう。だから曖昧で、不確定。ならば護の答えは決まったも同然だ。考えるまでも無かったとは、我ながら珍しい。これは直感だ。こちらの方が良いという感覚。
「だったら、僕は――」
前を見据えて、力強く。震えなど押し殺して。しっかりと相手に届くように。