「CODE:紅蓮」21
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物事に熱中、集中、執着している時こそ時間の経過というものは否応なしに早くなってしまう。
護がこのロウソクを見詰め続けて早一週間。一向に変化の訪れを感じさせない自分に焦りと不安を、協力していくれている聖羅と大和に申し訳なさを感じてしまう。
「んー……この方法ダメだったかなぁ」
「すみません……」
「いや謝る必要はないんだけどね?」
既に日は落ち、数時間程前に下校時刻となっている。ここ数日はわざわざ申請をして時間いっぱい屋上を占領しているのだ。しかし、それでも護が見据える先にあるロウソクは灯ろうとしてくれない。イメージ論について言えばほぼ完璧である、と自負出来るくらいであった。毎日毎日帰宅し次第、ただロウソクが燃える様の動画を見たり、写真を見たり。それを頭にねじ込み、まさに焼き付ける。勉強している時よりも単純で、楽な作業のはずだった。ならば何が足りないのか。
「こればかりは難しいな」
「そうね……急過ぎたっていう感じもしないでもないし」
「かと言って助言を求められるような相手が居るか?居ないだろ……」
「悲しい事に能力者って自分の能力をひけらかすの嫌うし、話したくない人間の方が多いのよね……」
聖羅自身もこれ以上何を教えれば良いのか分からないようで、大和は能力に関しては門外漢。他の能力者にもどうやら難があるらしい。初めてこの作業を行った時から感じていたが、恐らく、否、ほぼ自分の気持ちの問題で、心の話だ。頭で理解していても心がどうも言う事を聞かない。使わなきゃ、使わなきゃ、というプレッシャーも要因の一つなのかもしれないが。どちらにしろ、心の強度が大きい原因だ。これをどう鍛える――?
「ともかく、ゆっくりじっくりやっていきましょ。やる事はいっぱいあるんだし!」
「そうだな。結局開発の方は一切やらない手筈になってしまったし」
「あ、それは初耳です」
「言ってなかったか?まあそういう事だ。『研究所』は完全に君を能力者として見ているから開発には関わらせない、だと」
相変わらずキーボードを打ち込む大和の姿にすら申し訳なく思ってしまう。彼はきっと自分が加入する事で何かしらの補助になってくれるかもしれないと期待していたのだろう。人知れず苦労しているようだ。
「それじゃあ今日はこのくらいで良いかしら。明日は休みにしましょう!うん、休み!生徒会も無し!」
「だいぶ自分勝手だが……毎日やると言わないだけ極悪人ではないという事かね」
「むしろ天使よ?」
「……」
「なんで無言なの?聞いてたでしょ?」
今日は終わり、のようだ。いつもこのように明るく終わってくれているだけ護の気持ちも救われるというものだ。ただし、今日だけはやたら気が重かったようだが。何かあるのだろうか。
「えっと、それでは僕は先に帰らなくちゃいけなくて」
「そうなの?」
「はい。あの、買い物頼まれてて……」
「そっか。じゃあお疲れ様ーまた明日ね」
「お疲れ様でした」
お辞儀を数回、ドアノブに手を掛けて逃げるように立ち去った。階段を降りる足も嫌に速い。行きたくはないが、行かねば。小走りで玄関へ。手には携帯。誰も居ない事を確認して画面へと視線を落とす。一通のメール。そこにはある場所が記されていた。
「……」
息を呑み、外履きに履き替える。これから向かう場所、それは――