「CODE:紅蓮」20
「うーん……やっぱりいきなりは難しいわね……」
腕を組みながらそんな事を言う聖羅。日はすっかりと隠れてしまい、屋上から見える分には校内の生徒も少なくなってきた頃だろう。途中休憩を挟みながら約二時間程この作業をやってもらっていたが、さすがに進展は無かったようだ。
「なんだかすみません……時間掛けてもらってるのに……」
ともなれば、一番負い目を感じてしまうのが護である。謝る必要も無いのだろうが、どうも体に染み付いてしまった腰の低さ故言葉にしてしまう。正直な心境を吐くならば、まず自分が能力者であるという事を自覚する事、そこからが難関だった。ほぼ無意識で使ったあの炎、あれは本当に自分だったのか夢か何かではなかったのか、と妙に冷静な頭が考える。自分がそうであるはずがない、何故自分が、と否定に否定を重ねて閉ざしてしまった。そこは自覚している。
「まあ仕方ないわよ。初日だし」
「え、初日……?」
「もちろん!これから毎日……は生徒会もあるし難しいけど、出来る時はやるわ。根を詰め過ぎるのは良くないし、ある程度の休息期間っていうのは設けるつもりよ」
「能力の使用には精神的疲労が大きい、と聞くからな。下手にやり過ぎると数日間寝込むなんてのもあり得るらしい。練習段階と言えど気持ちの問題も考慮するべきだな」
精神的疲労、確かにずっと同じようにロウソクの先端を見詰めて炎の灯るイメージを重ね続けるという謂わばイメージトレーニングだけでも相当な疲労感がある。それと空腹感も。考える事だけは得意なのでこの程度では知恵熱やらの脳に負担が掛かる事は無いようだった。しかしこれを連続で行っていくともなれば話は別だろう。
「そうそう。だから今日はこれで終わりね。あ、ロウソクはあげるわ」
「はい、ありがとうございます……?」
拾い上げたロウソクを護の手の中に。一応社交辞令のように、反射的にお礼を述べたがこれは嬉しいもらい物なのだろうか。疑念が残るが、既に二人が帰り支度を始めているのを見て護もそそくさと行動開始。とは言ってもこのロウソクを折らないように優しく鞄に詰め込むだけなのだが。
「とりあえず……明日は生徒会だっけ?」
「ああ。そろそろ運動会の諸々を決める時期だ」
「そう言えばそうね……じゃあ紅野くんはひとまずお休みで良いわ。何かあったら呼ぶと思うけど大丈夫?」
「はい、大丈夫だとは思いますが……何も無いに越した事は無いです……」
珍しく愚痴る。基本的には危険な事が大嫌いだし、巻き込まれたくも無い。だから平和になってくれるのが一番なのだが、どうしてもそうは言っていられない環境。既に巻き込まれているのだから。せめて休んでいる時くらいはと切に願う。
「そんなに頻繁に蝕が出る訳でもないし、他に何か用事があるとすれば『研究所』絡みだと思うわ」
「そう、ですか……」
どちらにしろ呼ばれない事を祈るばかりだ。
「それじゃあ帰りましょうか」
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