「CODE:紅蓮」19
彼女が取り出したるは真っ白な棒だった。先端には何やら糸のような物が見え隠れ。学校にあって白い物と言えばチョークなのだが、否、それではない。ならば何か。答えは簡単だ。
「ロウソク、ですか……?」
「そんなのどこで使うつもりなんだ」
疑問符しか出て来ない二人に聖羅はと言うと。持って来たロウソクを護から目測五メートル程度離れた位置に器用にセッティング。これでは風で倒れるのではないだろうか。気にするところはそこではないと思うが。
「能力を使うのはまず体が覚えてくれないと。だから……これに火を点けてもらおうと思ってね?」
「点火棒持ってこようか?」
「は?能力で点けるんだけど」
「知ってるが……そんなに辛辣に返されるとは思わなかった」
一矢報いようとしたのだが、盛大に失敗した大和。しょんぼりとしながら再び作業に戻っていくではないか。そのまるで敗走かのように見えてしまう姿を見ながら護が質問を投げる。
「あの、まったく状況が掴めないんですけど……」
いきなり能力を使え、と言われているのだ。自分でも使い方が分からないというのに。不可能を可能に――一度は使えているのだから完全に不可能と言う訳でもないのだが――しろ、と。どうしたら良いのだろうか。
「んー……まずは自分は能力が使える、“能力者”だって信じ込む事ね。それから……ロウソクに火が点いてるイメージは出来る?画像じゃなくて映像で」
「ええ、なんとか……」
芯にゆらゆらと赤く燃える火。脳裏に描くのは容易である。最も簡単なのはバースデーケーキのロウソクだろうか。あのイメージを思い浮かべる。それから自分が“能力者”であるという未だに実感の沸かない事実を認識しなくてはならない。事実として。
「あとはそのイメージしたのをここに引き起こす感じね」
「……それだけ、ですか?」
「うん。それだけ」
「糸口が……」
「大丈夫!まずはこれだけ出来れば十分なの。何か、きっかけさえ掴めればね」
かなりの自信があるのか親指を立てて笑顔を見せる聖羅。どこにそのような根拠があるのだろうか。しかしこれを信じない限り、恐らく自分には何も出来ない。ならばやらなくては。少なくとも足を引っ張らないようにと。
「ちなみに会長ならどうやって燃やすんだ?」
「私?」
大和が顔を上げずにそのような事を聞く。確かに気になるものだ。経験者からの意見が一番の助けになるのだから。
「私は……そうねぇ。私の“招雷”はあくまで雷を自分から放射するっていう能力だから、その発火は付随と言うか。ひも?糸?の辺りで弾けさせて散ったやつで点火する、っていう感じかなぁ」
「あぁ……」
「まっ細かい事は後回し!下校時刻まで時間も無いし、まずはやってみましょ!はい!」
手を叩いて護の実行を促す。そうされてはやるしかないではないか。……正直に話すのならやってのける自信は微塵も無い。悲しい事に。




