「CODE:紅蓮」18
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「今日から能力開発をします!」
何の脈絡も無かった、と言えば微妙なラインではあるのだが、突如としてそのような状況に。護が呼び出されたのは誰も居ない放課後の屋上である。普段は鍵が掛けられており誰も入る事は出来ないこの場所。時折応援団や演劇部などがここで大声を出す練習を行っているのは知っているが。
「唐突だな……」
「そう、ですね……」
事情を知らないのは大和も同じようだった。わざわざ椅子を持って来たらしく、腰掛けながら面倒臭そうに言う。相変わらずノートパソコンも持参である。
「俺はまだ仕事が残ってるんだけど……ああ駄目かそうか」
「わかってるみたいね」
問答無用の圧力があったらしい。護には分からなかったが。
夕暮れの屋上、強めの風が聖羅の髪を攫おうとする。長く靡く髪と、スカートを押さえながら改めて口を開いた。
「ゆっくりやる、つもりだったんだけど方針を変えます」
「それは、どうしてだ?」
「まあ答えを言うなら、昨日接触があったからよ」
「蝕は別のチームが片付けてたから……あの能力者集団か……そう言えば名前がわからんな」
「私だって知らないわ」
毎回話題には上るのだが、どうやら二人は知らないらしい。という事は恐らく『研究所』の面々も知らないのだろう。だからここでは口を噤んでおくべきか、それとも情報として話しておくべきか。どちらが最良なのだろうか、と護の思考が泥沼に嵌る前に声が投げられハッとして顔を上げる。
「それで、どう?今すぐ使ってみてって言ったら使える?」
「いえ無理だと思うんですが……そもそもどうやってるんですか?」
「んー俺に答えを求められても困るんだ。会長頼んだ。……ところで俺は必要なのか?」
「うん、必要。見張りね見張り」
「あー……」
大和は自分がここに呼ばれてしまった理由を把握し、納得。完全に関係ないとも言い切れない事も判明し、仕方なく椅子に深く座り直す。ここで見張りが必要となってくるのは屋上への侵入者への警戒だろう。どういう内容を行うのか定かではないが、恐らく生徒会室では事が足りない。能力を使用して何かを行うはず。
「それで何だっけ……ああ、そう。能力を使う感覚?どうやって使うて聞かれると結構難しいのよねぇ……」
そう言いながら掌を出す。紫に近い色の稲光。それを伸ばしたり縮めたり、丸めてみたり螺旋状にしてみたり。まさに自由自在と言った感じだ。これを習得するのに一体どれだけ鍛錬したのか。
「私の場合は小さい頃から能力者だったから……こう、体の一部見たいな感じなのよ。例えば――」
掌を向ける先には大和。もう自分に話しかけられる事は少ないだろうと判断したのか、太腿に置いたノートパソコンで何やら作業中。その大和に向けて――
「――こんな風に、ね?」
――紫電を放った。威力は抑えてあるのだろうが、それでも自分の目の前を雷が走るという感覚はかなりの迫力だ。多少なりと空を裂く音が耳に入るが、それは光が見えた数秒後。
「お、お……?眼鏡が無い……見えない……」
一瞬、大和の顔から眼鏡を奪い去ったのだ。まるで自分の手を使って獲ってしまうように。
「はい、眼鏡」
そしてそれを護に見せたかと思えば再び戻す。その精密な動作を大和に危害を与えず――あくまでも肉体面での――能力を駆使したのだ。
「……何をした」
「ちょっとしたイタズラ?」
「こいつは生命線なんだ。やめてくれよ……」
割と本気のトーンである。眼鏡を取られると何も見えなくなってしまうのか、それとも作業の邪魔をされた事に対して微妙に怒りを感じているのか。しかしそれ以上は追及しようとはせず、再び作業に。
「いきなりこれをやって、なんて言わないし、恐らく出来ないからまずは能力を使うイメージを養って貰おうと思って……」
スカートのポケットを漁る。一体何をさせるつもりなのかと護は怯えるばかり。そして聖羅が取り出したるは――