「CODE:紅蓮」17
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ここ数日、遅く帰るというのはなかなかに回数が増えてきたのだが、それでも護は何も言われる事はなかった。なので鍵を開けて家の中に入り、一応リビングに顔を出す。すっかり冷え切った夕食がそこには用意されているのだ。非常に申し訳ないのでレンジは使わず、冷たいままでいただく。明かりはキッチンだけ。ここが一番窓から遠く、暗い電気なのだ。なるべく誰にも迷惑を掛けないように、とここを選んだのである。最近知った事実ではあるが。
黙々と食べ、終わったら洗って、拭いて。風呂も給湯器などのオール電化システムが騒ぎ出すのでシャワーのみの使用で軽く済ます。寝巻きに着替えればこれでいつでもベッドに潜れる状態だ。
「何か……出来ないのかな……」
どうやら真美も眠っているらしく、気付かれずに自室へと戻って来れた。そして鞄を置いて寝転がる。今日はもう勉強しておく気力も無い。『研究所』に向かう日はいつもそうなのだが、そろそろそうも言っていられない時期がやって来る。だがそれはそれで、これはこれ。今は別の事に頭を使う。
「順番に……勧誘されたんだよね……そっちも考えないと……」
聖羅の前では濁したが、護はしっかりと考えていた。『研究所』と敵対している『救世主』という集団――形態も定かではないが、複数居るのは確かだ――から、自分へ伸ばされた手。理由は何だろうか。この前は関わるなと言われて、今度は仲間になれ、と。どうしてだ。あの時と、今日までの違い。変化。自分の変質――
「……能力しかない、よね」
変わった事と言えばそれしかない。あの日襲われて目覚めた異能の力。極めて強力な炎の力。恐らく、それが欲しいのだろう。それは戦力として、という事か。だとするならば首を横に振っても良いのかもしれない。護にはメリットが無いし、彼らの仲間になるという事は聖羅や大和、その他大勢の『研究所』の人間と敵対関係になるという事だ。そんなの出来るはずがない。
しかし、その判断がされる事も相手は分かるはずだ。ならば何故。そこまでして護を引き込もうとするのか。どこかにヒントは無いか。
「……」
考え事をするのなら適している頭だと言われた事は過去にあるのだが、今回ばかりはその頭も働いてくれないらしい。ただただ時間が過ぎ、次第には眠気もやって来てしまう。これ以上の思考は明日――今日の授業への支障が出る。そろそろ限界か。詰め込み過ぎても答えが出ない時もある。
「はぁ……」
ともかく相手の真意が見えなければ首は動かせない。これだけは決定事項だ。そして護を動かせるだけの事情があるのなら、考えなければ。次に相まみえる時まで。交渉をしなければならない、というかなりの重荷が発生してしまったが。
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