「CODE:紅蓮」16
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「これで良いんだな?」
今はあくまでも一般人として、ここに居る。
自室、大好きなロックバンドのポスターやグッズがそれなりに綺麗に――本人以外からすればかなり乱雑ではあるが――置かれた部屋。純白のローブと仮面も脱ぎ捨て素顔を晒す彼が向かっているのは机に設置されているモニターだ。頭にはフードではなくヘッドセット。見るからに誰かに話し掛けているようだった。
[問題ない。次の指示を出す]
しかし話し掛けているというのに返ってくるのは無機質な文字のみ。音声などは一切無いのだ。
「待てよ。本当にこれで『機関』を一網打尽、だなんて事が可能なのか?あのなよなよしたあいつを入れて?」
この問いには随分と長考だ。普段であればものの数秒で返事があるはずなのに、と腕を組んで待つ。
[そうだ。あの能力は脅威になる。ならば引き込めば良い]
「簡単に言うよな……」
煙草を取り出したが、この部屋も禁煙なので諦めて箱に戻す。今日はまだ四本しか吸っていない。寝る前に一服が必要だ。
[簡単だからだ。彼には仲間になって貰うだけの理由がある]
「ふーん……一応聞いとくけど、それはなんだ?どうせ教えてくれないんだろ?」
[その通り。それは彼を引き込めたら、彼に直接教えるつもりだ]
「ま、そうくるか……それで、次はどうしたら良い?寝込みでも襲うのか?」
指示待ちが問題視されているが、今回ばかりはそうも言っていられない。何故なら、この案件は完全に任せきりだからだ。この画面の向こうに居るであろう、“誰か”に。誰か、と言うのには勿論理由がある。
[そのような事はしない。したくないだろう?]
「ああ、そう、だな。なるべくなら」
[だからだ。君に相応しい環境をこちらで用意する]
「相応しい環境ね……」
この男とも女とも、そもそも人間なのかどうかも分からない相手。この“相手”の手腕は確かなのである。前回、蝕のような化け物と対峙した際に“あの少年”の能力の一端を垣間見る事が出来たし、先程『機関』の研究員が通る場所も正確に指示を出した。だからこそ、仕事をする上では信頼の置ける相手なのだ。しかし、この事は誰にも話していない。独自の判断で、単独の行動を取っている。リーダーに知られれば大目玉を喰らう事にはなるだろうが、今のところ上手く行っている。だから、大丈夫なはず。
「具体的には?」
[それは追々教える]
「これもかよ」
[こちらにも事情がある。では、良い夜を]
一方的に通信は途切れるのが相手と自分の常だ。偶に人間味のあるような発言も書き込まれるが、大体は事務的な物。受けて、聞いて、終わり。これの繰り返し。楽で良いのだが。
「はぁ……どうなるかね」
ヘッドセットを投げ捨て、椅子に凭れ掛かる。これからの展望は――
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