「CODE:紅蓮」11
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乗っ取るのは簡単だった。それから奪い取るのも。ほんのちょっとだけ目立たないように暴れてやれば良いのだから。
無様にも転がった数人の男達を尻目に独り呟く。
「本当なら先に渡してからやりゃあ良いんだろうけども……実験も大事だ。そうだろう?」
「う、ぅ……」
別に命まで獲るつもりはないので意識の混濁しているであろう男を足蹴にしながら言う。怨みも辛みも勿論持ち合わせているが、この男が関わっていたという証拠はない。だからこうして生かしている。能力を使えば枯れ枝を折るように容易く終わらせる事は出来るのだが。
「持ち出してたのが運のツキだ。あと俺に見付かっちまったってのもある」
胸元から煙草の箱を取り出し、その中から適当な一本を唇へ挟む。火を点けた。オレンジと赤の小さな火と共に紫煙が昇る。
「さて、始めるか――」
空いた手に握られているのは小さな端末だった。スマートフォンにも似ているだろうか。それを何度か操作すると男は歩き出す。
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すっかり暗くなった道を歩く二人。建物内から漏れる明かりと等間隔に設置されている外灯を頼りにして駅までの短い距離を歩いていく。並んで歩いていたが、ここで護はある事に気付く。
「あの、会長」
いつもなら気付いても口にはしなかったのだろうが、何故か今日はすんなりと言葉が漏れた。その声に乗せられていたのは心配の色。
「なに?」
「もしかしなくても、疲れてますか……?」
異変、とまでは言えないし、もしかするとただの思い過ごしなのかもしれなかったがそういう風に見えたのだ。暗がりのせいで表情はうっすらとしか見えないが顕著な部分があった。
「どうして?」
「いえ、その……いつもだったらもう少し歩くのが早いような……と思っただけです……」
次第に尻すぼみに。失礼かもしれない、自分に合わせているのかもしれない、と思ったからだ。
しかし聖羅は――
「あー……良くわかったわね。うん、疲れてるかも」
――護が言うように疲労していた。推測しなくとも先程の模擬戦の影響が出ているのだとはっきり分かる。しかし能力自体はほとんど使っていないように思えたが。
「……あの元気ってね、言いたくはないけど本当に格闘の才能は頭一つ、ううん、二つくらいは抜けてるの。何と言うか、いつも以上に神経質になっちゃうのよね……」
「そうなんですか……そんなに……」
「肉体的には疲れて無くても、精神的に疲れるのよね。でもホントに良く気付いたわね?なかなか良い目をしてるわ」
「いえ、勘みたいなものですから……」
褒められている、そう感じてしまうと口角が上がってしまうのが人間だ。顔を隠すように下を向いていたが、不意に周囲の明るさが増す。どうやら話している間に駅に到着していたようだ。
「ちゃんと見てくれてるのね――」
「え……?」
「……あ!もう電車来るじゃない!急ぎましょ!」
「は、はい!」
小声で、聞こえないようにしたつもりだったのだが護はどうやら耳聡く、言葉が届いてしまったらしい。その言葉を理解させる前に体を動かしてやるのが良いはず。別に聞かれて困る話ではないが、なんとなく気恥ずかしい。自分でも意味が分からなかったが。