「CODE:紅蓮」10
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どうやら『研究所』に所属している能力者は構内の飲食物が半額になるらしい。無料ではない、というところが優しさを感じない部分ではあるのだが、致し方ない。
既に帰り支度を終えた聖羅と元気、そして続いて護も同じ建物内にある小さな休憩所に来ていた。ここにも関係者以外立ち入り禁止の標識が数箇所に掲げられている。しかし先程のように無機質な純白の部屋だったりする訳でもなく、内装は全体的に木目調で温かい雰囲気を醸し出していた。
「それで、これからどうするんだ?」
新たに買ってきたスポーツドリンクのペットボトルの中身を半分ほど、一気に飲み干してから声を投げる元気。
「これからって?帰るだけだけど。明日も学校あるし。もう遅いし」
「そらまあそうだ」
「帰らないの?」
「俺だって帰る。居心地は良くないけどな。そうじゃなくてだよ、彼の事だよ」
指を差されたのは護だ。元気が聞きたいのは護の今後について。
「……そんな事まで頼まれてるの?」
先程の一件のせいもあって、元気が『研究所』の誰かから依頼を受けて面倒を見ようとしているのではないか、と勘繰ってしまうのだ。眉間に皺を寄せ、唇をペットボトルの口につけながら威嚇するように低く言う。
「ちげえよ。これは俺の親切心だ」
対して元気はそのようなやましい気持ちは一切無い事をアピールするかのように両手を挙げる。確かに彼が嘘を貫き通すのが得意なように見えない。だから、恐らく、多分、本当だ。
「信じろっての。……俺の勝手な見解だけども、君あれだろ?運動苦手なタイプだろ?」
「……」
直球。自覚はしているが気にしないようにしていた事実。面と向かって言われるのはなかなか心に響くものだ。だがどうしようもなく事実なので護は無言のまま頷くしかない。
「と、いう事はだ。能力を使うにしても体力が必要だろ?だから――」
「ストップ。どうせ鍛錬させるとか言うんでしょ?ダメよ。紅野くんは能力を確実に使えるようにするのが優先。肉体面は後からでも大丈夫よ」
「そうかなぁ……」
「方針自体はもう決まってるから変えないの」
護の頭上で展開される自分の育成方針。どうやら大まかなものは決まっているらしいのだが、護には何も聞かされていない。今初めて能力重視の方向性で、という話を耳にした。
「使えるようになってから、制御とか応用とかを教えて最終的に肉体面をやっていくつもりよ?私もそうだったから」
「うーん……納得はいかないけどなあ。しゃあないな。せっかく弟子でも取れるかと思ったのに」
「結局はそこなの?」
呆れるように息を吐く。
「いや一人で鍛錬するのって限界があるのよな。能力があるから他の人よりは色々出来るんだけど」
最終目標は護を弟子にする事だったらしい。しかし一向に意見を曲げようとしない聖羅に根負けしたのか、改めて護へと言葉を掛ける。
「まあ頑張れよ。最初から上に行ける可能性が見えてるんだからな」
「は、はい」
「それじゃあ俺はお先に。また今度手合わせしようぜ」
「んー……気が向けばね」
話はこれで終わりだ、という事なのだろう。颯爽と席を離れる元気。そして流れる静寂。
「私たちも帰りましょ?電車の時間もあるし」
「そうですね」
中身の空いた容器をゴミ箱へと入れ、二人も扉の外へ。ふと、護はここで思い出す。
(あれ、さっきの話に僕の意見は全然入ってないみたい……というか入る余地が無い……?)
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