「壊れた歯車」11
「さ、早く入って?」
わざわざ着替えたのだろう。先程までの制服姿ではなく、Tシャツにジーンズというラフな格好だ。しかし、さすがは学校の有名人。そんな適当な服装であっても似合っている。
「私の部屋は二階の突き当たりだから……大和、案内してあげてくれるわよね?」
痛みを堪えて立ち上がった大和が何も言わずに了承。ドアの一撃はかなり強烈だったみたいだ。
「わかっている。紅野君はついて来てくれ」
「あ、はいっ」
慣れた手つきでスリッパを棚から取り出して護の足元へ。
「私は少し準備してから行くわ」
「先にやっておけば良かっただろうに……片付けに気を取られていたのか?」
「……ちょっとだけよ」
「まったく……別に準備はいらないだろう?実際にやって見せたら良い。特に会長のは分かり易い典型的な例になるだろうしな」
何やら二人の間で護にはわからない会話が開始。小声で話ているのをわざわざ聞く必要はないと思い、ほとんど耳には入れないようにと周りを見渡す。手入れの行き届いたフローリングは光を反射し、家具も木目調のアンティークが並んでいて統一性がある。
「それもそうかもね。何事もインパクトを与えた方が記憶に残るものね」
「勢い余って記憶を消すなよ?」
「うふふ……大和の記憶ならごっそりやってあげてもいいのだけど?」
物凄く楽しそうななので割り込むのも悪いと思い、立ち尽くす護。連れて来られたのは良いが、全く話が進んでいない。当初の剣呑な雰囲気はどこに飛んで行ってしまったのだろうか。
「そんな事をしている内に時間は無くなってしまうから、早く移動してしまいましょう?紅野くんにも悪いからね」
「自分で――いや、何でもないからさっさと始めてしまおう」
今度こそ、護は二人に連れられて階段を上がる。聖羅の言っていた通り、彼女の部屋は二階の突き当たりにあった。そこまで来て、自分が妙に緊張していることに気付く。
「どうかしたのか?何やら顔が真っ赤だが……」
「い、いえ!何でもないですよ!?」
不意に話し掛けられて驚きのあまり声が裏返ってしまった。悟ったような表情で大和が一言。
「ふむ。会長よ、どうやら彼は会長が隠しそびれた何かを見つけてしまったみたいだぞ」
「え……っ!?そんな訳は無いわ!だってちゃんと全部タンスの中とか収納棚とかに隠して――って何言わせてるのよ!」
「ただ推測で言ってみただけだったのだが、図星みたいぐっ!」
言った途端、電光石火の一撃が大和の鳩尾を襲う。静電気のような青白い光を一瞬だけ閃かせて。
「ねぇ大和?口は災いの元っていうことわざに聞き覚えは?」
「ざ、残念ながら耳にタコが出来るぐらい聞き飽きている……」
「それは良かったわ。ふぅ……そろそろ本題に入らないと。大和はもう必要な時以外に口を開いたらダメだからね」
ぐったりしている大和に更に灸を据え、部屋の扉に手を掛ける。護は緊張の正体が何なのか瞬時に理解した。
「ここが私の部屋よ」
「お邪魔、します……」
そう。女の子の部屋に入るのはこれまで生きてきて始めての経験だったからだ。




