「CODE:紅蓮」08
「……呆れた」
闘志を滾らせる元気に対して聞こえないように呟いたのはこの一言だけだった。口元は少しだけ上がったようではあるが、やはりこの『研究所』のやり方に関しては面白みを感じないらしい。
紫電が舞う。
そこから幕切れまでは瞬く間であった。
床を割らんばかりの蹴りで距離を詰める元気。この間にも彼は足元に能力を使用し瞬間的に、爆発的に推進力を得るのだ。聖羅との距離は五メートル弱だろうか。一歩目で鋭く跳び、着地と同時の二歩目、加速。大きく後方に引いた腕、このまま振り抜くだけでも相当な威力になるだろう。しかしそれだけで終わるはずもなく。
「セッ――ィヤァ!」
気合一閃。空中で踏ん張りが利かないはずであるが、撃ち出される拳はまるで砲弾のよう。撃ち出す瞬間に肘の付近に風を生み出して撃鉄の役割を与える。
加速に次ぐ加速。常人の目では当たってから気付くような動きになっているのだろうが、当然聖羅は違う。
「最大には最大で迎え撃たないと……悪いわよね?」
既に元気の腕は完全に聖羅を捉えている。顔を狙ったりするような事はないだろうが、それでも当たりたくはない。避けるのは恐らく間に合わないというのも理解している。だったら後は簡単だ。
聖羅の能力は“招雷”。文字通り、雷を招く。発生源やら何やらは他の能力も同様に研究中である。しかし出力の強弱は本人のコントロール次第。まるで自分の体の一部であるかの如く使えるのだ。なればこそ、こう使う。一点に集中。狙いは元気の拳だ。相殺するだけなら造作もないが、元気の事だ、恐らく必殺の一撃を連続で繰り出してくるはず。
「――!」
直撃を確信したのか多少の驚きも見て取れたが、すぐに真剣な顔付きに。しかしその確信は粉々に砕け散ってしまう。振り抜いて、当てた――はずだった。
「大丈夫よ、ちゃんと手加減はしておいたから」
伸ばしていたはずの腕は、地に落ちて。気付いた時には両膝も曲がっているではないか。しっかりとした感触があった。殴ったはずの自分の腕にも衝撃が伝わって痛くなる程に強力な。ならば何故、彼女は立っていて自分は倒れようとしている。
「スーツにも耐久度の限界があるのは知ってるし、それ以上にならないように最大の防御をしたまでよ」
攻撃ではなく、防御。揺らぐ体を必死に堪えながら考えた。
「なるほど、なぁ……盾って事か……?」
「そうね。簡単に言うと盾。それを放散させたの。……痛かった?」
「痛いっちゃ痛い……痺れてるし」
能力の差は大きい。体を鍛え上げてもその壁にぶち当たる。だが、だからこそ楽しい、と元気は感じているのだ。まだまだ先がある事に。一瞬に賭けられるからこそ一般の試合よりも心が躍る。
「んー……動かねえか。降参だ」
痺れる体に力を込めるのを諦め倒れ込む。当然のように笑っていた。
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