「CODE:紅蓮」07
競い合い、磨き合うのはどのようなスポーツ、武道でもあるだろうが、全力の中にも本人達の気が付いていないほんの少しの手心があるかもしれない。
しかし彼ら能力者には基本的にはそんな物は存在しない。どれだけ能力に差があろうが、体格に差があろうが力の限りぶつけ合う。だからこその凄まじさであった。閃光が飛び交い、轟音が鼓膜を壊さんばかりに響き渡り、空気は殴りつけるかのように震えている。
しかしこれだけの迫力でありながらもモニター越しである護には一切の揺れも感じさせないし、音も映像の中からだけであった。どのような仕組みになっているかなど到底理解は出来ないが、普段世間で使われているような技術ではないのだろう。護の居る部屋でこれなのだから、当然下の階で通常のジムとして使っている人々にもなんら影響がないはず。普通の生活と異常な世界が表裏一体になった空間がここにはある。
拳を突き出す。脚を鞭のようにしならせる。あくまでもその延長線上の数センチの範囲に風を生み出すのが元気の能力だ。風は瞬間的に集束、そして破裂。断続する破裂音はこれの所為である。
「せえぇ――いっ!」
威力こそ無い――訓練された能力者を相手にした場合だが――が、彼にはそれ以上に強力な武器が備わっていた。それが天性の武才。動きは洗練されており無駄などどこにも見て取れず、的確に相手へとダメージを与えていく。たとえ相手が自分よりも一回り小さな女子だとしても。練習だったとしても。そこに一切の優しさを感じさせない。
気迫と威力が伴った攻撃だ。特殊スーツが無ければ痣だけでは済まされないだろう。その一撃一撃の重さを身をもって感じながらも聖羅は涼しげであった。直撃はさせずに、被弾しながら受け流して隙の出来た箇所に電撃を放つ。特殊スーツには勿論能力を抑えられるように対策が施されているが、それでも限界というものがあるのだ。時折走る痛みにほんの少しだけ元気も顔を歪めるが引く気はないらしい。尚も掛け声と共に連撃を繰り出していく。
「正直なところ、能力に差があるから……」
「そんなのは百も千も承知さ。お前が本気出せばすぐ終わっちまう。俺の能力だなんてここの能力者のリストでも下だってのはわかってるさ」
束の間の休憩、なのだろうか。お互いに距離を取っての会話。体を止めているだけでまだどちらも臨戦態勢だった。
「じゃあなんでわざわざ……」
「ま、そういう役回りだったって話だな」
「……頼まれて、ってこと?」
呆れるように頭を掻き、盛大に溜め息を吐く。このやり取りだけで大まかな事態が把握出来たらしい。
「どんな内容だったの?」
「なーに、簡単だよ。お前が来るだろうから模擬戦してくれって」
「それだけ?」
「うん。難しい話は俺には関係ないし聞き流してやったぜ!」
快活に、爽快に笑う元気。頼まれたから仕方なく、という雰囲気は持っておらずむしろ喜んで引き受けているのだろう。それが彼の性格。
「どっちにしろ、戦うってのは楽しいしな。理由は考えろって言われたけど……好きな事をする。それだけさ」
「なるほどね……」
「お前と模擬戦したかったのは事実さ。だからこうして――」
再び纏う闘気。能力としては使えなくともその目に宿るのは熱い炎だ。
「――純粋に拳を向けられる」




